2011年8月23日火曜日

実習船の24時間命がけの労働に 8時間勤務とは しかも 生徒も教職員のいのちを守る安全対策は


 山城貞治( みなさんへの通信 66)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その46)


(22)水産課程を置く学校では、安全衛生基準と安全衛生マニュアルをつくり十分な安全対策を講じさせる。
 その場合、航海、潜水などの安全衛生対策を強化させる。
(23)農業課程を置く学校では、特に農薬などの安全衛生対策や機械使用の安全対策を講じさせる。

  などは、1998年2月から府高本部がまず労働安全衛生パトロールをはじめた。
 府高労働安全衛生対策委員会ニュース「教職員のいのちと健康」に載せられた記事の一部を紹介する。

府高本部・水産高校分会を訪れ
実習船「みずなぎ」などの労働安全衛生パトロール
 あまりにひどい長時間労働と勤務実態に疑問と不満

府高本部は、海洋高校分会を訪問し、職場の労働条件や労働安全衛生について話し合い。
 特に、実習船「みずなぎ」の稼働問題、実習中は24時間拘束なのに8時間勤務にさせられていることなど多くの問題が明らかになった。
  学職部長は、実習船「みずなき」の過酷な勤務実態、水産省の下請け業務などの問題を述べつつ

「船員の方達の声は、どれも緊急の内容を持つものばかりだった。それぞれ専門のライセンスを持った教諭と一緒に実習教育を大袈裟ではなく命がけで支えておられる。
 技術職員の位置づけで手当等にもさまざまな差別がある。地方公務員法・条例に加え船員法など複雑な適用が未整理のまま。」


と明らかにした。

 労働基準法・労働安全衛生法・船員法の多くの違反を事業者である京都府・府教委に改めさせることはもちろん、事業者である京都府・府教委に、いのちそのものに関わる労働安全衛生対策を実習船「みずなき」の教職員に講じさせるようしなければなりません。
 府高本部は、この問題をすぐ府教委に改善を申し入れた。
 ところが、2001年3月の「教職員のいのちと健康」には、次の重大な問題が明るみにした。

痛ましい事故は
府教委がどのように言おうと
   学校現場の安全対策を訴えている

 2001年2月9日午後1時45分、ハワイ・オアフ島沖で宇和島水産高校実習船「えひめ丸」が、アメリカ原子力潜水艦「グリーンビル」によって追突され沈没した事故で9名が行方不明となりました。
 この事件はマスコミによって大きく報道されましたが、京都新聞はその関連で府立海洋高校の校長に取材をしています。
 以下京都新聞の記事を転載します。

米原潜、なぜ気付かぬ
事故に衝撃府立海洋高                                                      2001年2月11日 京都新聞

  京都府内で唯一、外国での航海実習を行っている宮津市上司の府立海洋高では、潜水艦との衝突という今回の事故にショックをうけている。
 海洋高(1990年開校)は全国に47校ある水産系高校の一つ。
 航海実習は前身の府立水産高校時代の84年から始め、現在は学校が所有する実習船「みずなぎ」(185トン)を使って、毎年6月ごろに約3週間、実施している。
 学校関係者の一人は「浮上した潜水艦との衝突は一般の船では避けようがなく、不運としかいいようがない」と衝撃を隠しきれない様子。
 昨年の実習は女生徒を含む海洋生産科漁業生産コースの3年生18人がサイパン島方面を訪れ、航海技術の習得や海洋気象の観測、現地の高校生との国際交流などを行っている。
 衝突事故のあった宇和島水産高校のように、遠洋での漁業実習は実施していない。
 小林憲彦校長は「実習の内容は違うが、今回の事故は同じ航海実習を行っている学校として本当に残念。生徒の安全をさらに考えていきたい」という。
 同高では今年も6月5日から3週間、サイパン島方面での航海実習を計画している。

  新聞記事でも校長は、「生徒の安全」を言っても「教職員の安全」を言わないことが明らかだろう。
 船上では、生徒も教職員も一体。乗組員全員の安全を表明しないところに、京都府・府教委の安全性に対する「無関心」「無策」が反映している。

船員法では
労働基準法なども労働安全衛生法も適用が
明らかにされていると資料の一部を教職員に知らせる

資料  船員法  (要旨)
第一条(船員)
 この法律で船員とは、日本船舶又は日本船舶以外の命令の定める船舶に乗り組む船長及び海員並びに予備船員をいう。
第六条(労働基準法の適用)
船員労働安全衛生規則  (要旨)
第一章 総則
第一条(趣旨)
 船内作業による危害の防止及び船内衛生の保持に関し、船舶所有者のとるべき措置及びその基準並びに船員の遵守するべき事項は、他の法令に定めるもののほか、この省令の定めるところによる。
第一条の二(船長による統括管理)
 船舶所有者は、船内における安全及び衛生に関する事項に関し船長に統括管理させ、かつ、安全担当者、消火作業指揮者、衛生担当者その他の関係者の間の調整を行わせなければならない。
第二条(安全担当者の選任)
 船舶所有者は、船内においてこの省令に定める事項を行なうために、船長の意見をきいて、甲板部、機関部、無線部、事務部その他の各部について当該部の海員の中からそれぞれ安全担当者を選任しなければならない。
第五条(安全担当者の業務)
 船舶所有者は、次に掲げる事項を、安全担当者に行わせなければならない。
一 作業設備及び作業用具の点検及び整備に関すること。
二 安全装置、検知器具、消火器具、保護具その他危害防止のための設備及び用具の点検及び整備に関すること。
三 作業を行う際に危険な又は有害な状態が発生した場合又は発生するおそれのある場合の適当な応急措置又は防止措置に関すること。
四 発生した災害の原因の調査に関すること。
五 作業の安全に関する教育及び訓練に関すること。
六 安全管理に関する記録の作成及び管理に関すること。
第六条(改善意見の申出等)
 安全担当者は、船長を経由し、船舶所有者に対して、作業設備、作業方法等について安全管理に関する改善意見を申し出ることができる。この場合において、船長は、必要と認めるときは、当該改善意見に自らの意見を付すことができる。
2 船舶所有者は、前項の申出があつた場合は、その意見を尊重しなければならない。
第十一条(安全衛生に関する教育及び訓練)
 船舶所有者は、次に掲げる事項について、船員に教育を施さなければならない。
一 船内の安全及び衛生に関する基礎的事項
二 船内の危険な又は有害な作業についての作業方法
三 保護具、命綱、安全ベルト及び作業用救命衣の使用方法
四 船内の安全及び衛生に関する規定を定めた場合は、当該規定の内容
五 乗り組む船舶の設備及び作業に関する具体的事項
第十二条(船員の意見を聴くための措置)
 船舶所有者は、船内における安全及び衛生に関する事項について、船員の意見を聴くため、船内において、適当な措置を講じなければならない。
2 船舶所有者は、船内において安全又は衛生に関する委員会を設けた場合は、船長をその委員長とし、かつ、船員の選んだ委員を参加させなければならない。

大事故・大災害があると「予算がない」と言って拒否した改善要求が通るがそれは安全無視の現れ

  水産課程、農業課程での労働安全衛生は各該当高校で詳しく取り組み、要求が出された。
 しかし、京都府・府教委はいつも大事故が起きてから改善をするのが常であった。

 それでも継続的に海洋高校の場合も、工業高校の場合も、農業科の場合もすべて詳しく調べて労働安全衛生上の改善要求が出された。
 しかし、いつも予算がないと断る。だが、他校で大事故が起きると改善する傾向だけは、なぜか、「固持」し続けた。

2011年8月20日土曜日

全日本教職員組合(全教)書記長へ 「給特法」に関する当局のねじ曲げを認めてしまうと、たたかいの方向が歪み 教職員のいのちと健康を守ることはますます困難になる、と元府高委員長


 山城貞治(みなさんへの通信65)

「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その45)

長時間過密労働を強いられている教員の
   「給特法」を打ち破ってこそ
 いのちと健康が守れると満身の提言


  労働基準法を守らない政府に対して、その矛盾を告発し、教職員の労働実態を解明する取り組み。また、全国の教職員は、一方では、裁判を通じて超過勤務の実態を告発し、最高裁を含む各級裁判で勝利した。そして、「給特法」(国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)がつくられた歴史的経過を踏まえないと、再び長時間勤務が「容認されると」と本年、以下の全日本教職員組合(全教)書記長談話に対して元府高委員長は、提言をした。

京都市教職員組合の組合員超勤訴訟
    に対して全教書記長談話は


 全日本教職員組合(全教)書記長談話は以下のとおりである。

2011年7 月12 日「教職員の長時間過密労働の是正に背を向ける最高裁判決に断固抗議する」(談話)全日本教職員組合(全教)書記長

 最高裁判所第三小法廷(大谷剛彦裁判長)は、本日、京都市教職員組合の組合員9 名が2004 年に京都市を相手取り、提訴していた超勤訴訟に対して、まったく不当な判決をおこないました。全国の教職員が切実に求めてきた、長時間過密労働の是正に背を向け、学校現場の実態を無視した今回の判決に断固抗議します。また、7 年半もの間、裁判闘争を支えてきた原告団および京都教職員組合をはじめ支援にあたった全国の教職員組合の仲間のみなさんに心から感謝とお礼を申し上げます。この裁判は、教職員の過重な超過勤務の是正を求めていたものです。2009 年10 月1 日には、大阪高等裁判所が、すでに京都地方裁判所判決において勝利した原告1 名に加え、さらに2 名の原告に対して、55 万円の慰謝料を支払うことを命じる判決を言い渡していました。大阪高裁判決が、「(管理職は)時間外勤務の時間からすると、配慮を欠くと評価せざるを得ないような常態化した時間外勤務が存在したことは推認でき」たこと、また「(管理職は)時間外勤務が極めて長時間に及んでいたことを認識、予見できたことが窺われるが、それに対して、改善等の措置を特に講じていない点において、適切さを欠いた」ことを断罪し、管理職の安全配慮義務違反を明確にした点は全国の教職員を大きく励ますものでした。しかし、本日の最高裁判決は、教職員の長時間過密労働の是正に向けた到達点とすすみはじめた全国のとりくみにまったく逆行するものです。それは、教職員の長時間過密労働について、「勤務校の各校長が被上告人らに対して明示的に時間外勤務を命じていないことは明らかであるし、また、黙示的に時間外勤務を命じたと認めることもできず、他にこれを認めるに足りる事情もうかがわれない」とし、教職員の時間外勤務の実態に目を向けようともしない判断に終始していることです。
 「命じていない」かぎり時間外勤務は存在しないという給特法の建前を理由に、教職員の無定量の長時間過密労働を容認する立場は、増え続ける病気休職者に見られるような教職員の実態からも認められないものです。
 同時に、給特法をめぐって繰り返される司法の判断が、給特法そのものの限界と問題点を露呈しているといわざるを得ません。
 第二に、管理職の安全配慮義務違反についても、「強度のストレスによる精神的苦痛を被ったことが推認されるというけれども、本件期間中又はその後において、外部から認識し得る具体的な健康被害又はその兆候が被上告人らに生じていたとの事実は認定されておらず、記録上もうかがうことができない」ことを理由に、否定しました。これは、教職員が長時間過密労働で斃(たお)れない限り、管理職の安全配慮義務が問われないというべき暴論であり、絶対に容認できるものではありません。裁判闘争をすすめることをとおして、全国の教育委員会と学校職場で教職員の長時間過密労働問題が正面から問題にされ、勤務時間管理をはじめ、労働安全衛生のとりくみが大きくすすんできたことは、私たちの確信にすべき到達点です。しかし、不当判決は、あらためて今日の学校現場の実態にそぐわなくなっている給特法の問題を提起しています。全教は、今後とも、子どもたちのすこやかな成長と豊かな教育の実現をめざして、教職員の長時間勤務の解消とともに、教育条件の改善と給特法改正にむけた運動を強化する決意を表明するものです。         以上

踏まえられているか 各県教組と各教育委員会との教職員の無定量な超過勤務をなくすための協定
                                     

これに対して元府高委員長は、次のように全日本教職員組合(全教)書記長に意見を述べ、提言をしている。

 ご苦労さまです。先日の、京都市教組の超勤訴訟での最高裁の不当判決に対するあなたの談話をインターネットで見させてもらいました。全教のご支援に心から感謝を申しあげます。

 ただ、談話の中で少し気にかかるところがありました。退職してから8年が経ち、ぼけも進んでいますので的外れかもしれませんが、参考にしていただければ幸いです。

 私が引っかかった談話の部分 
「『命じていない限り』時間外勤務は存在しないという給特法の建前を理由に、教職員の無定量の長時間過密労働を容認する立場は」

という箇所です。
「その理由」
1.給特法制定まで  ( 略:すでに記載 )
2.「給特法」の制定  ( 略:すでに記載 )
3.私が言いたいこと 以上、簡単に私なりの経過を述べました。


  私が一番言いたかったのは、給特法の持つ矛盾はありながらも、たたかいによって政府(文部省)や各県当局との間で、協定を結ぶことによって無定量の超過勤務、言い換えれば、「限定4項目以外は超過勤務を命じることができない」とさせたことを踏まえておられるのかどうかということです。(注:すでに掲載した、「給特法」の実施に当たって、各県教組と各教育委員会とかわした協定では、教職員の無定量な超過勤務をなくすため、限定4項目「県によっては5項目」の協定を結ぶなどの歯止めをかけた。)
 政府や当局は、教職員が超過勤務をしなくても良いように、定数増などのそのための手立てを義務付けられていたのです。
 ところが、政府や当局は、これをごまかすために、たえず、4%(注:この4%には根拠はない。ましてや時間外労働の平均値でもない。)を支払っているから、クラブ指導などの「自主的な指導」はこれに含まれているなどの詭弁を弄しています。
 しかし、こんなごまかしは許されません。

  給特法の原則は 
教職員には限定4項目以外の超過勤務は
  させることができない


 給特法の原則は「教職員には、限定4項目以外の超過勤務はさせることができない」ということです。
 それなのに、現実は当局が何の手立てもしないから、子どもの発達を保障する立場からやむをえない超過勤務が発生しています。
 これこそが、給特法やそれに関する協定違反であり、労働基準法・労働安全衛生法に違反しているのです。
  それを「命じていない限り、……」と、「給特法」に関する当局のねじ曲げを認めてしまうと(:「命じていない」かぎり時間外勤務は存在しないという給特法の建前を理由の部分)、たたかいの方向が歪むのではないでしょうか?

 実は今度の裁判でも、私は弁護団の追及がこの点では弱かったのではと、思っています。
 「給特法」のたたかいの原点にもどって追及することができていなかったと思っています。
  えらそうなことを書いてしまいましたが。

 すでに結ばれてきた限定4項目以外の超過勤務はさせることができないという協定を破っていることへの闘いや政府、行政、教育委員会の言い分を「鵜呑み」にする傾向を打ち破らない限り、決意をしてもそれは気持ちだけになってしまう。
 元府高委員長は、幾多の過労死、労災、公務災害、国家公務員災害補償の認定に心底から取り組んできたことから、非常に「配慮に配慮を重ねた」全教書記長への提言として書いている。
 
 
この真意は伝わっているのだろうか。

 最高裁判決を乗り越える方途はある、と示唆した提言なのだが。

父母・府民の負託にこたえる教育に責任を持つ上でも欠かすことができない重要なことと同時に教職員が健康で安心して働くという観点から『いのちの問題』を考えねば


 山城貞治(みなさんへの通信64)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その44)


「近畿高等学校教職員組合連絡協議会 略史 その5」に文章を寄せていた元府高委員長の文章の概略

ヨーロッパと異質の「週40時間労働」が ただ働きを加速

3.1990年代の労働法制改定の動き 

 世界の労働者の労働時間短縮への趨勢は、フランスが週35時間制に移行したのを筆頭に、ヨーロッパの各国では、年次休暇の大幅な延長など、大きく改善された。 
 しかし、日本は、ようやく週40時間制への動きが緒につき始めたばかりで、政府の言いなり、労働者の権利を守ることを放棄した。
 「連合」の方針や大企業の圧力も反映して、週40時間制の導入とひきかえに変形労働時間制やフレックスタイム制、裁量労働制の導入、労働者派遣法の改正など、次から次へ労働基準法は改悪され、ただ働きの超過勤務がますます蔓延するようになった。

公務災害認定の道のりは険しく 裁判そして……

8.公務災害認定闘争

 定数増をサボり続ける行政当局のもとで、長時間・過密労働は、教職員の健康を蝕むだけでなく、いのちまでも奪い、各県で公務災害認定闘争がたたかわれた。
 この分野でも、全教は、全国の仲間を結集し、新たな地歩を一歩一歩築いていった。
 1993年、京都市教組の北芝訴訟が、大阪高裁で逆転勝利し、確定したのをはじめ、1995年1月には茨城県の大林事案、同じく6月には大阪府の向井事案の公務災害認定など、公務災害認定への道を切り開いていった。
 とはいえ、認定への道のりは険しく、各県段階での公務災害補償基金支部での認定は、ほんのわずかで、多くは裁判闘争を通じて認定を勝ち取っていった。

「通常の仕事比較論」を論破し
 学校現場の労働実態の「事実」を認めさせる

 こうした中で、1999年7月、京都府高が取り組んだ城陽養護学校の「小谷裁判」。 同じく1999年12月、丹波養護学校の「西垣裁判」では京都地方裁判所で画期的な勝利判決を勝ち取った。
 両判決は、学校現場の労働実態の「事実」に忠実に、行政が振りかざす形式的な「認定基準」を排す判断を示した。
 判決は

① それぞれの仕事の実態を丁寧に認定し、いずれも、疾病を引き起こす負担の大きい仕事であることを率直に認定した。(これは事実から乖離した公務災害補償基金へのもっとも厳しい批判でもある)

② 学校現場の実態に正しく迫り、公務災害補償基金支部が最後まで強く抵抗した障害児教育を行う学校は、頸肩腕症候群や腰痛症が発生する危険の高い職場であることを認定した。

③ けいわん(頸肩腕)や腰痛などの疲労性疾病に対し、公務災害補償基金支部がいつも切り捨てに使う

「日常の仕事より余分に仕事をしたか」

という

「通常の仕事比較論」

を排し、
あくまでも仕事の実態に即して判断すべき事を鮮明にした。

 つまり、「通常の仕事」そのものが負担が大きく、疾病を発症させるのであるから、日常の仕事と比較したり、他の職員と比較しても意味がないこと。

打ち破った「3カ月治癒説」と公務災害認定基準を変える力

 また、公務災害補償基金側が「医学的に確立された見解」として持ち出す「3カ月治癒説」は医学的に何の根拠もなく、むしろ長期療養の必要性すらあることを認め、基金支部の主張を一蹴したことなど、重要な判断を示した。
 これらの判断は、先の全国ではじめての腰痛に関わる公務災害認定として、腰・けいわん(頸肩腕)に苦しむ全国の教職員や労働者を大きく励ました向井判決とともに、それ以降の公務災害認定基準を大きく変える力となった。
 また、京教組・京都市教組が取り組んだ内藤先生の過労死事案では、当局がサービス残業としか認めない「持ち帰り残業」を大阪高裁が公務として認定した(確定)意義は大きい。
 さらに、2002年2月に出された丹波養護学校の山本事案に対する中央審査会の裁定は、もともとの股関節脱臼の後遺が職務の過重で変形性股関節症をさせたものとして公務災害を認定した。
 こうした認定の大きな力となって運動をすすめたのが全教・日高教、近高連である。
 といりわけ、長野、山口、北海道などを先頭に各県高教組は、署名活動でも多数の署名を京都府高に送り励ましてくれた。
 同時に、全国の民間労働者のたたかいも私たちの公務災害認定闘争や、労働安全衛生体制を職場に確立する上で大きな励ましを与えるものであった。

 確定した電通最高裁判決は、

「長時間労働の継続などで、疲労や心理的負荷が過度に蓄積すると、労働者が心身の健康を損なう危険があることは周知のところである。労働基準法、労働安全衛生法は、このような危険の防止も目的とする。使用者は、労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」

と判断し、オタフクソース広島地裁判決は

「事業者には、労働環境を改善し、あるいは労働者の労働時間、勤務状況などを把握して、労働者にとって長時間または過酷な労働とならないよう配慮するのみならず、労働者が労働に従事することによって受けるであろう心理面または精神面への影響も十分配慮し、それに対して適切な措置を講ずべき義務を負っている」

と指摘した。
 さらに最近の認定闘争における過労自殺裁判や認定判断では、精神疾患も含め、個人の自己責任ではないという判断も示されている。

裁判なしに公務災害を認めさせ
 誰もが健康で安全に働けるための学校に

 こうした情勢を背景に滋賀県で、養護学校の教職員三名の疲労蓄積性の疾病が基金支部審査会段階で公務災害と認められ、京都でも向ヶ丘養護学校の生路先生の「頸肩腕」と池田先生の「頸肩腕ほか」が京都府公務災害補償基金支部によって公務災害と認定された。
 いずれも
「公務によるものであれば三ヶ月程度で治るはず」
という基金側の従来の主張をくつがえす認定事例となり、基金の段階で認定させた意義は大きく、学校で誰もが健康で安全に働けるための労使対等の労働安全衛生体制確立に生かす上で大きな力となった。

「学校の主人公は校長」と70人以上の組合員を学校から排除
 
9.不当人事を許さぬたたかい

 1990年代に入って、各県では、不当人事が多発するようになった。
 その背景には校長を中心とする管理強化を企図した職員会議の民主的運営の破壊や文部省の、改悪学習指導要領の押しつけ、日の丸・君が代の押しつけなどがあった。
 とりわけ、京都では「学校の主人公は校長」と公言してはばからない教育長のもとで、反動教育行政の遂行を企図した職場支配のための不当人事が相次いだ。
 京都府教委は、文部省言いなりの差別・選別の新しい高校づくりをすすめるため、嵯峨野高校では数年がかりで70数名いた京都府高の組合員を不当配転し、代わりにすべて未組合員を転入させるなどの暴挙を行った。
 京都府高の抗議に当局は「たまたまそうなっただけ」と開き直り、交渉にも応じなかった。
 90年代に入っても校長中心の管理強化で、文部省言いなりの学校支配を企図する京都府教委は、それまでの労組合意事項である「希望と納得の人事」を一方的に反故にし、全日制から障害児学校へ、聾学校から盲学校へ、全日制から定時制へなど、教職員の意向や専門性、通勤条件などを無視して「理解と協力」という名目で、不当人事を強行した。

人事委員会に提訴するなど「いのちの問題」であらゆる闘いが
 京都府高は、これらのうち、80年代に起きた全日制高校から障害児学校に希望に反していきなり強制異動を発令された松梨、千本先生の両事案に加えて、90年代は、全日制高校から定時制高校に異動させられた則包先生事案、聾学校から養護学校に異動させられた岸本先生事案、全日制高校から養護学校に異動させられた若林先生事案を人事委員会に提訴してたたかった。

「人事は父母・府民の負託にこたえる教育に責任を持つ上でも欠かすことができない重要なことである、と同時に教職員が健康で安心して働くという観点から見ると『いのちの問題』でもある」

というのが提訴の理由であった。

不当人事を発令した張本人が人事委員会審理の審査長とは
 しかし、松梨、千本事案の不当人事を発令した当時の教育長が人事委員会審理の審査長を務めるというこれらの審理に正義はなく、不当にもこれらの異議申し立てはいずれも却下された。
 京都府高は人事異動期には、不当人事110番を設置するとともに、教育に責任を持つことと労働条件を守るという二つの観点を統一させる立場を堅持。
 組合員を敵視し、それらのことをないがしろに有無を言わせぬ一方的な不当人事を繰り返す当局に対して次のような取り組みをすすめた。

不当人事阻止のための10か条
①あいまいな返事はしない。
②「異動範囲を広げて」に注意。
③校長の不当発言を軽視しない。
④必要な時にはメモをとる。
⑤校長の責任を曖昧にしない。
⑥不当なことは明らかにし、みんなの問題にする。
⑦「希望実現」で攻めよう。
⑧カギはみんなの団結力。
⑨それでもダメなら父母・地域に!。
⑩本部と分会の連携プレーで!)を提起し、たたかいをすする。

 近畿の各高教組もそれぞれ、不当人事に対しては、お互い交流を深めるとともに、その狙いは何かなどを明らかにし、父母・府(県)民とも力を合わせ、敢然とたたかった。

要求は粘り強いたたかいで実現し 突然実現はしない
   過去のたたかいの歴史を学び
 学習を重ねると必ずそこには教訓がある

 
要求は粘り強いたたかいで、実現し、突然実現しない。
 たたかいは常に過去のたたかいの歴史を学び、学習を重ねる。
 そこには必ず教訓がある。
 歴史の上に立ってたたかいをする。
 相手の土俵で喧嘩をしない。
 こちらの土俵に引きずり込む。
 相手は、情勢が違うなどと、過去を消し去り、現在を強調する。

 最高裁判所第三小法廷(大谷剛彦裁判長)が京都市教職員組合の組合員9名が2004年に京都市を相手取り、提訴していた超勤訴訟に対して、まったく不当な判決をおこないました、という全日本教職員組合(全教)書記長談話に対しても元府高委員長は、あえて、直接意見を述べ、提言をしている。
 それは、あの日に言われた「仲間が……」ということから教職員のいのちと健康を守るために徹底した姿勢を貫いているからである。感銘を受ける。

2011年8月19日金曜日

「給特法」(国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)は最大の矛盾、教職員の過労死や公務災害が多発原因をつくった と元府高委員長が指摘しつづけている

 山城貞治(みなさんへの通信63)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項
政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その43)


 「次第に工業課程における危険性と安全対策が理解され、取り組みが大きく広がった。そんな時、卒業生が死んだのは「過労死ではないか」との報告がされ、府高委員長はすぐ取り組むよう指示。その問題を70歳を超えようとする今も取り組んでいる。」と前号で紹介した。
 しかし、その時の委員長は、退任しても
「仲間が見殺したとも言える」
を胸に刻んで京都職対連などで多彩に取り組んできた。
 しかし、元府高委員長は教員の労働時間について他の労働者とは違った形態に置かれてきた歴史的経緯を明らかにしない事には、多くの誤解と裁判での敗北を産むとしていくつかの文章を書いている。
 他にも教員の長時間過密労働が「許されている現実」に疑問の質問も寄せられてきた。
 教職員組合の中で「労働安全衛生法の活用」で、教員の長時間過密労働が食い止めらるという主張も圧倒的に多い。
 だが、前号で紹介した「22歳の府立工業卒業生の過労死」問題は、

 府立工業で労働安全衛生法のことが教えられていたら、労働安全衛生法を知っていた過労死を
 防げたのだろうか。
 労働安全衛生法にある詳細な法・法規が教えられていたら過労死は防げたのだろうか。

 元府高委員長は、自問自答し悩み続けて、労働基準法と労働安全衛生法をセットで考えつつも労働時間と労働負担(精神的にも肉体的にも)を考え、それに歯止めをかけないと過労死は防げないと考えたようで、まず教員の労働時間について解説した文章を書いている。

 長文なので一部を紹介するが、他の労働者との労働時間から考えれば理解しがたいところがあるかもしれない。
 しかし、よくよく考えれば、本質的事態は同じである。

 以下、「近畿高等学校教職員組合連絡協議会 略史 その5」に文章を寄せいた元府高委員長の文章の概略を紹介させていただく。

健康で安心して働き続けられる
  労働条件確立のたたかい

1.教職員の時短闘争の歴史

 教職員の長時間・過密労働を解消するたたかいは、幾多の困難と壁を乗り越えてきた歴史を持っている。
 永年の労働者のたたかいによって1919年、ILO第1号条約として、国際的には、8時間労働制が採択されたが、日本政府は、その批准を拒否し続けた。
 戦前は、絶対主義的天皇制のもと、「官吏服務規律」でも天皇の僕としての労働が強制され、時の政府には、「労働時間」という概念がなかった。
 1946年11月、公布された新しい日本の憲法には、基本的人権の重要な柱の一つとして、その第27条第2項に、「賃金、就業時間、休息その他の勤務条件に関する基準は、法律にこれを定める」と規定され、これにともなって、1947年4月、労働基準法(以下、労基法と略す)が公布され、その第2条には、48時間労働制が、第3条には、時間外勤務をさせた場合の割り増し賃金の支払いが義務づけられた。

労働基準法はすべての労働者の労働基準だった
    もちろん教職員も

 当然のこと、教職員にもこれらの条項が適用されることになった。
  しかし、依然として教職員の長時間勤務は解消されないままだった。
 政府がそれを可能にし、保障する定数増などの教育条件の整備を長く怠り続けたことにその原因があったことはいうまでもない。

時間外勤務手当は、教員には支払われなかった

 それなのに、労働基準法の定める時間外勤務に対する時間外勤務手当は、教員には支払われなかった。
 その口実に政府は、教員の賃金が、一般公務員より高く改善されてきたことをあげていた。

教職員の超過勤務の実態を告発し
  最高裁を含む各級裁判で勝利

 政府は、1949年2月、「教員の勤務時間について」という文部次官通達を出すなどして、その矛盾を指摘されるたびに、矛盾を取り繕うとしたが、その内容は、長時間勤務の実態をごまかすものであり、不当なものだった。
 その後、こうした矛盾を告発し、教職員の労働実態を解明する取り組みが全国的に広がり、人事院も「勧告」で必要な検討を指摘せざるを得なくなった。
 また、全国の教職員は、一方では、裁判を通じて超過勤務の実態を告発し、最高裁を含む各級裁判で勝利した。

「給特法」(国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)

 こうした情勢を踏まえて政府は、1971年予算案で初年度3か月分の財源として40億円を計上し、これを受けて人事院は、1971年2月8日、「義務教育諸学校等の教諭に対する教職調整額の支給等に関する法律の制定についての意見の申し出」を行い、これが「給特法」の骨格となった。

「給特法」の最大の矛盾と
労働基準法の適用をかたくなに拒み続けた政府の意図

2.「給特法」の制定

 政府は、中央労働基準審議会の建議を経て、1971年2月16日、「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法案」(給特法)を国会に提出し、可決成立した。
 国会では、

 教員の職務と勤務の態様の特殊性とは何か。
 その特殊性によってなぜ労働基準法の適用が除外されなけ

 ればならないのか。
 無定量の勤務に対する歯止めは何か。
 調整額の性格は何か。


などが論議されたが、政府・文部省(現 文部科学省)は、「教員の職務と勤務の態様の特殊性」を口実に教員への労働基準法の適用をかたくなに拒み続けた。

 「給特法」の最大の矛盾はここにあった。 

教職員の職務の専門性と労働者としての
  権利を統一的にとらえる

 当時の日教組は、日高教とともに「測定可能な勤務には労基法37条の適用を、測定困難な勤務に対しては、定率の手当あるいは調整額の支給を」という「二本建要求」を対置してたたかった。
 当初、日教組執行部の提案は、こうした見地に立たず、教職員の労働の職務の専門性を軽視し、労働者としての側面だけを強調した。
 しかし、近畿の各県教組や高教組は、全国の一致する県教組や高教組とともに教職員の職務の専門性と労働者としての権利を統一的にとらえる「二本建要求」を粘り強く主張し、これが全国方針となった。
 
 各県教組と各教育委員会とかわした協定は
無定量な超過勤務を認めないことは明確だった

「給特法」の実施に当たって、各県教組と各教育委員会とかわした協定では、教職員の無定量な超過勤務をなくすため、限定4項目(県によっては5項目)の協定を結ぶなどの歯止めをかけた。

 しかし、根本解決をするための定数増などの教育条件の改善に取り組むことを約束しておきながら各教育委員会は、政府・文部省が教職員の定数改善をしないことを理由にその改善を先送りにし、教職員の多忙、超過勤務・長時間過密労働の実態は改善されないまま、ますますひどくなり、1980年代から、教職員の過労死や公務災害が多発するようになった。

2011年8月16日火曜日

22歳の府立工業高校卒業生の過労死 教職員は黙ってはいられない


山城貞治(みなさんへの通信62)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その42)


(21)工業課程を置く学校では、特に工業用の安全衛生基準と安全衛生マニュアルをつくり十分な安全対策を講じさせる。

  について、はアスベストのところでも明らかにしたが、工業課程では学科があり、さまざまな機器が設置されていた。学校はまさに「工場」であり、そこで学ぶ生徒も教職員も安全対策は最優先のことであったが、安全対策は極めて不充分であった。
 労働安全衛生対策委員会のメンバーや府高労働安全衛生学習会で得たことを基にひとつひとつ安全対策が要求され、大規模改善も行われるようになっていく。
   例えば府立G府立工業課程で、京都府人事委員会の立入調査で「アーク溶接によるじん肺対策が行われていない。」ということを「教職員のためのいのちと健康と労働」紙上で掲載したところ、「アーク溶接によるじん肺」について知りたいとの問い合わせがあった。
 そこで、「アーク溶接によるじん肺対策」を「教職員のためのいのちと健康と労働」紙上で掲載するなどしたところ、次第に工業課程における危険性と安全対策が理解され、取り組みが大きく広がった。
 そんな時、卒業生が死んだのは「過労死ではないか」との報告がされ、府高委員長はすぐ取り組むよう指示。
 その問題を70歳を超えようとする今も取り組んでいるので紹介したい。
 なぜなら京都府高は「学校がよみがえる労働安全衛生」(文理閣発行)を作成し、教職員の労働安全衛生は、生徒の労働安全衛生に直結していたからである。
 
22歳の府立工業卒業生の過労死
         教職員は黙ってはいられない

 現在この中田過労死事件は、裁判で争われているが、その概要を紹介するために弁護士宮本平一氏の文章を紹介させていただく。

22歳の若者の死亡(中田過労死事件)提訴 弁護士宮本平一
 事案の概要
 故中田衛一君(1978年(昭和53)年生)は、1997(平成9)年3月、福知山市内の京都府立工業高校を卒業して、4月からトステム綾部株式会社(住宅建築用内装資材の製造及び販売等を目的)に勤務した。
 そして、製品検査の仕事を経て、1998(平成10)年10月から、DSジャストカットライン(ドア枠加工のラインの中の受注生産ライン)の作業に従事していた。衛一君は、昼夜勤の勤務を継続していたが、2001(平成13)年6月16日、夜勤明けにて自宅で就寝中のところ、母がその異変に気付き、救急車にて福知山市民病院に搬送したものの、同日午後6時30分、同病院にて急性心不全により、22才の若さで死亡した。

 提訴までの経過

 衛一君の両親は、2002(平成14)年4月9日、福知山労働基準監督署に対し、過労死として労災補償請求をしたが、翌2003(平成15)年3月28日業務外とされた。 そこで京都労災補償保険審査会に審査請求をしたが、同年11月26日同審査請求は棄却された。
 そのため再審査請求をなしているが、未だ決定は出ていない。
 本件は、災害発生から既に9年間経過していること、被告には労働契約上の安全配慮義務違反(二交替勤務制の下での長時間労働、過酷な職場環境、緊張する作業内容等)の過失があるので、本年6月12日、京都地方裁判所福知山支部に、金1億0143万1200円の損害賠償請求の提訴となった。

 両親の思い

 長男である衛一君は、「若者の職場」と言われていた被告会社に入社した。
 子供の頃から優しく穏やかな性格で、お年寄りにその荷物を持ってあげたり、わざわざ車を降りて、危ないからと道路を渡らせてあげたりして感謝された。又真面目かつ責任感が強く、職場の同僚からも、壊れた機械を一生懸命修理、仕事のミスも、「大丈夫ですよ」と声をかけてもらったとの話しもあった。
 衛一君の生産ラインは、受注生産による即納体制にあり、「残業はあって当然」「その日のうちに帰宅できれば良い方」という長時間理労働が恒常化しており、複数の親からの訴えで、監督署も再三立ち入り調査に入っていた。
 又、職場は、切り粉が舞い、冷暖房は定時に切れ、立ちっぱなしで、力とスピードと精密さを問われ、又派遣社員を指導しながらの能率アップが必要であった。
 辞めていく同僚もある中、衛一君は、休みたくても、同僚や自分への負担を考え「やっぱり休めん」と言って出勤し、自分の体を酷使して働いていた。
 楽しみにしていたスノーボードに行く気力もなくなり、淡い恋心を抱いていたメル友のゆうさんへのメールさえ、打ちながら眠ってしまう有様だった。
 そして、入社時に90キロあった体重も、死亡当時には72キロまで激減していた。
 さらに2000年秋頃から胸に異常な感覚を訴えるようになり、又爪の色が紫色になったり、足の感覚が無くしびれているようになったりしていた。
 そして帰宅後も胸を抱え込んでぐったりして動かない事や、ふさぎこむ事しばしばあり、食事もとらないで、自室に閉じこもる事も多くなっていた。
 会社の同僚も、痩せて青い顔をしている衛一君に対し、「まじ、やばいんちゃう」という話までするようになった。
 看護士でもある母親が、「そんな働きかたしていたら過労死するで」とまで言っていた矢先の死亡であった。
 冷たくなっている息子に、半信半疑で、「あのとき言っておけば」と自問自答しながら息を吹き込む親の気持ちを考えてほしい。
 一時も手を握って看てやることもなく、大切なかけがえの無い息子を奪われ、本当に無念でたまらない。
 会社側は、一言の謝罪も無く使い捨ての様に終わらせようとした。22歳の息子の死を決して無駄にはしないでほしい。

第1審は負けたが 高裁判決めざして

 ところが、2011年5月25日死亡は過労死として同社に損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、京都地裁であり、大島眞一裁判長は、原告の請求を退ける判決を下した。
  このことに対して府高元委員長は、次のような文章を京都職対連顧問として投稿している。

いつも怒りを覚える
 過労死した子どもを 
なぜ遺族がなぜ証明しなければならないのか

不当判決
 5月25日、京都地裁で、「中田過労死裁判」の判決があった。
 中田君のお母さんは、遺影を胸にしっかりと抱きしめ、判決を待ったが、判決内容は「原告の請求を棄却する」という心も凍る冷たい不当判決だった。
 それにしても、この種の裁判で、いつも怒りを覚えるのは、過労死をした遺族がその働き方を証明しなければならないことだ。
 今度の判決でも、裁判所は、正規のタイムカードもなく、会社側が、管理職にこっそりとメモ程度に記録させておいた、それも残業時間をごまかしているような労働時間を採用して判断した。
 私に言わせれば、タイムカードも設置せず、労働者に無定量の働かせ方をしている企業に対しては、それだけでも裁判所は、企業の不当性を断罪すべきである。
 報告集会では、佐藤弁護士や村山弁護士をはじめ担当弁護士、支援する方々、中田君のご両親が不当判決に対する怒りとともに、裁判の展望を語っておられたが、私たちは、京都地裁で負けても、大阪高裁で逆転勝利判決を勝ち取った「大日本印刷 中居過労死裁判」勝利の歴史を持っている。

「あきらめたらあかん」を読み直してみたら
  瓜二つの裁判 許されない

 16年の裁判記録「あきらめたらあかん」を読み直してみたが、相手が大独占であったことといい、企業側が労働実態を隠し続けたことといい、また、2交代制の勤務であったことといい、瓜二つの裁判である。
 この判決内容を逆転負けした京都地裁の裁判長に知らぬとは言わせない。
 「中田裁判」の医学的な解明に加えて、「中居裁判」における「吉中証言」など、判決内容に裁判官が一度でも目を通す良心があったのなら、こんな判決文は書けるはずがない。
 過去の「判決」に逆行するという点でも、今回の京都地裁判決は二重に不当判決といえる。
 しかし、私たちは、司法の反動化が進む中でも、「中居裁判」では、大阪高裁で、京都地裁の不当判決を見事に覆した。
 中田君のご両親は、即、控訴されたという。

花々が咲き誇る時期に 判決に負けない決意
 と徹底した労働安全衛生を誓う 

 今年の6月16日は、中田君の10回目の命日である。

 私たちは「中居勝利判決」に学ぶとともに、京都地裁の不当判決なんかに負けるわけにはいかない。
 4月に入ると、個人のお宅の玄関先や各地の畑でもチューリップが見られ、小さいものや大きい花びらを持つものなど、どれも心を和ませてくれた。
 このチューリップ、気温の変化には敏感で、気温が20度以上だと花は大きく開き、気温が10度以下になってしまうと閉じてしまう。
 二~三日暖かい日が続いたかと思うと、急に冬に逆戻りしたかのような寒い日があると、チューリップは花を閉じてしまう。
 一日単位でも、温度差がある日だと、開いたり閉じたりということになる。
 チューリップが面白いのは、温度差で開いたり閉じたりするのであって、日中は開いて夜間は閉じているなどということではないことだ。
 夜間でも20度以上だと花は開いている。ただ、今年のように暖かいのか、寒いのか良くわからない日が続くと、開いていいのか、閉じなければならないのか、チューリップも大いに悩んだのかもしれない。

 さらに、元府高委員長は全教(全日本教職員組合)に対してもズバリ過労死をなくす取り組みの弱点を指摘していた。

2011年8月13日土曜日

1997年に出された京教組養護教員部の養護教諭のための労働安全衛生Q&A


  山城貞治( みなさんへの通信 61)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その41)


「1997年に出された京教組養護教員部の
養護教諭のための労働安全衛生Q&A」
「教職員のいのちと健康」(1998年2月)より転載。

 最近府下各地教委などが管理職を衛生管理者(衛生推進者)にしたり、養護教諭や体育教諭を衛生管理者(衛生推進者)にする動きがあります。
 また第2回府高分会労働安全衛生担当者会議でも養護教諭が衛生管理者になることについての意見も出されています。
 そのため京教組養護教員部の了解のもとに京教組養護教員部が1997年12月に出した「Q&A」を2回にわたって転載します。
ぜひ、この問題を学習して下さい。なおこの「Q&A」へのご意見は、京教組養護教員部までお寄せ下さい。

養護教諭のための労働安全衛生Q&A
 京都教職員組合養護教員部発行(その1)  

1.Q&Aをより理解するために 

① 労働安全衛生とは労働者が労働することにより、けがや病気になったり生命を亡くすようなことがないようにするするためのすべてのこと(予防)をいいます。
 そのため労働者が仕事をすることによりけがや病気や死ぬことがあったりすれば、それはすべて働かせている側や労働の場を提供している側(労働基準法では使用者・労働安全衛生法では事業者)にすべての責任があるということです。
 したがって、働かせている側は労働者が労働することによって、病気やけがや死ぬことがないよう、あらゆる手だてを行わなければならないのです。
 ところが労働衛生と労働安全衛生法ということばがよくにていることばであるため、労働衛生=労働安全衛生法と誤解され理解されていることがよくあります。
 しかし、これはまったく大きな誤りです。
 くわしくは「教職員のための労働安全衛生入門」を読めばよくわかっていただけると思います。

② 養護教諭が安全衛生管理者もしくは、安全衛生推進者になる問題については、労働安全衛生法上及びその規則の一部に基づくものですが、少なくとも労働安全衛生法の問題について以下の点だけは十分理解し考えておく必要があります。

 労働安全衛生法の問題点については、「君は元気に働いているか-職場安全衛生活動の手引き-」(日本機関紙出版センタ-・以下「君は元気に働いているか」)には次のように書かれています。
 安全衛生管理の責任は、事業者にあることは法律で規定されています。
 すなわち、労働安全衛生法(労衛法)は事業者が労働者の安全と健康を守る義務として法律(最低基準)を守ることと、労働条件の向上と快適な職場環境の形成を明示しています。
 しかし、1972年、労働基準法(労基法)の見直しの一つとして作られた労働安全衛生法は、「労基法と相まって」とは書いてありますが、労働者のいのちと健康を守る権利を保障していません。
 労働者が職場の危険を知る権利、調べる権利、拒否する権利、逃げる権利、学習する権利、専門家の意見を聞く権利、監督官に抜きうち立ち入り調査させる権利などを保障していません。
 また、労働者の生存権や労使対等の参加なども保障されていないため、安全衛生の手抜きのまま新しい工法や技術や機械が一方的に導入されています。労働組合や現場の労働者のチェックが無視されています。
  以上の問題点などは、労働安全衛生にたずさわる専門家の常識的な理解であって労働安全衛生法だけでは教職員のいのちと健康は守れません。
 たとえば過労死の問題を考えてみても長時間労働による死亡などは労働基準法とも関連するなど、労働安全衛生法上だけで解決できないことは明らかでしょう。
 私たちが労働安全衛生法に依処しても、支配するもの(国、行政、検察、警察などの権力)が自分たちの都合のよい法律だけを楯(たて)にとって、進めてくることは今までの民間・自治体労働者の労働安全衛生闘争の経験からもわかっていることです。

 ではどうすればよいのでしょうか。
 それは私たちが組合として、教職員のいのちと健康を守る要求を統一し団結して闘ってこそ、いのちと健康が守れるのです。
 戦前の産休の闘いからも、そのことは明らかです。

③ 労働基準法、労働安全衛生法はほとんどの企業が違反をしており、それを監督指導する労働基準局は事実上の黙認を行っているのは広く知らされているところです。
 法違反の罰則等がありますが、それが適応されるのは死亡事故や大災害があって、社会問題になって起訴され裁判で判決がくだされる時のみ適応されるという、いわゆる「ザル法」になっています。
 だからといって、私たちがその違法を見逃してはならないのは言うまでもないでしょう。
 私たち教職員の場合は、地方公務員法で労働基準法と労働安全衛生法の違法を摘発し指導するのは、府立学校においては寄宿舎を除いては京都府人事委員会、京都市立校などは主に京都市人事委員会、各市町村立小中学校においては、各市町村が労働基準監督所と同じ役割を果たすとなっています。
 しかし京都府人事委員会などは、20数年前から教育委員会や学校現場が休憩休息、時間外勤務、健康診断等、死亡報告、安全対策、労働安全衛生体制などなどの労働基準法や労働安全衛生法に数多く違反していると指導(自分がした違法行為を自分で徹底した監督指導をするはずがないのです。)していますが、直接関係する教職員にはすべて知らせず(行政間のなれあい)ごまかされていることは知っておくべきでしょう。

2.養護教諭のためのQ&A

Q1.「衛生管理者になってくれないか」と校長に言われたらどう答えるの?
 養護教員部がいつも明らかにしていた「誰のための、何のための」ということをまず頭におきましょう。
 そして、「衛生管理者は、誰のための衛生管理者か。
 どんなことをするのですか」と聞き、メモをとっておきましょう。
 このことは後になって問題が起こったときなど仕事の内容にかかわる重要な証拠になります。
  衛生管理者や、衛生推進者には仕事がありますがその仕事はその時々の行政の解釈の仕方でどうにでも理解されるところがあります。
 そのため、衛生管理者、衛生推進者の仕事を受ける場合は、まず管理職等に言われたことを養護教諭の仲間と交流し、相談することが大切です。
 断ることは自由です。
 職務命令で衛生管理者、衛生推進者を命ずることはできません。
 それは学校教育法28条「児童生徒の養護を司る」のが養護教諭の仕事であることが法律上明記されているからです。
 したがって、教職員の労働と安全にたずさわる責任は、全くありません。
 その責任は、事業者にあるのです。
 しかし、いったん引き受けるとなしくずし的に仕事を私たちに押しつけ「職務命令」の対象にさせられる危険性はあります。引き受ける場合は必ず、養護教諭を増員してもらうことです。
 これは当然組合本部として要求する事項でしょう。
 なぜなら本来の仕事でないことをさせられるのですから、本来の仕事をする人を加配するのは当然のことです。
 また自分ができないことまで引き受ける事のないようにしましょう。引き受けて、管理職があれやこれやと仕事を増やしてきたら養護教員部まで連絡してください。
 この問題について専門的にやっておられる研究者が多くおられますので協力していただき、専門的にアドバイスがいただけますし、教職員組合も不当なことについては闘いを強めてくれます。
  ただ注意してほしいのは、衛生管理職、衛生推進者というのは事業者責任で行われる労働安全衛生をすすめるためのスタッフであり事業者側ではありません。
 そのためすべての責任は事業者にあるので、自分の責任と思わないようにしましょう。
  衛生管理者、衛生推進者になった場合は府と市は人事委員会に、小中は各市町村にそれぞれ届けることが義務づけられています。

Q2.養護教諭は衛生管理者になれるんですか。又衛生推進者とどう違うの?
  労働安全衛生上はなぜか「学校に限ってのみ養護教諭と保健体育教諭は衛生管理者になれる」と定めています。(養護教諭などで衛生管理者の免許を持っている人以外は、他産業では衛生管理者として通用しません。)
 この背景には、教職員を他の労働者と違うのだという意識的政策をつくることによって、教育を支配していくため、 また生徒たちに労働者意識をうえつけないための意図があったのではないかという研究者の指摘がありますが、ともかく法律上なれることになっています。
  労働安全衛生法上では衛生管理者は免許がいり、衛生推進者は免許がいらないとなっていますが、すでに述べたように学校に限ってはきわめてあいまいな状況になっています。
 ある管理職が言うところによると「一夜づけで衛生管理者の試験に合格した。○×だから簡単や。労働衛生なんか忘れてしもたわ」と言っています。
 衛生管理者の試験は国家試験で難しいと思われるむきがありますが、必ずしもそうではないようです。
 問題なのは衛生管理者、衛生推進者として十分活動できるよう時間やお金や学習する機会が保障されるのかどうかということです。
 また衛生管理者、衛生推進者の意見が十分反映できる状況がつくられているのかどうかということです。
 「君は元気に働いているか」(同上)には、衛生管理者と衛生推進者について以下のように書かれています。

衛生管理者
1,衛生管理者はどんな業種でも50人以上の労働者がいる事業場に専任者がいなければならない。
2,衛生管理者は都道府県労働基準局長の免許が必要であること。(注*学校は例外とされている。)
3,衛生管理者の職務は、少なくとも毎週1回作業場を巡視し、設備・作業場・休憩室・食堂・便所等や作業方法を点検し、衛生上や労働者の健康障害になる問題点があれば、直ちに必要な措置を講じなければならないこと。

4,衛生に関する技術的事項としては、
イ、健康に異常のある者の発見及び処置。
ロ、作業環境の衛生上の調査。
ハ、作業条件、施設等の衛生上の改善。
ニ、労働衛生保護具、救急用具の点検及び整備。
ホ、衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項。
へ、労働者の負傷および疾病、それによる死亡、欠勤および移動に関する統計の作成。
ト、その他衛生日誌の記録等職務上の記録の整備等。
5,月一回の安全衛生委員会で衛生管理者としての活動を報告する。


衛生推進者
1,10人以上50人未満の事業場で選任しなければならない。

2,衛生推進者等の職務は、
イ、施設、設備等(安全装置、労働衛生関係設備、保護具を含む)の点検および使用状況の監視、ならびにこれらに基づく必要な措置に関すること。
ロ、作業環境の点検(作業環境測定を含む)および作業方法の点検並びにこれらに基づく必要な措置に関すること。
ハ、健康診断および健康保持増進のための措置に関すること。
ニ、安全衛生教育に関すること。
ホ、異常な事態における応急措置に関すること。
ヘ、労働災害の原因の調査および再発防止対策に関すること。
ト、安全衛生情報の収集および労働災害、疾病・休業等の統計の作成に関すること。
チ、関係行政機関に対する安全衛生に係わる各種報告、届け出等に関すること。
 以上の仕事をするためにも行政・教育委員会は充分な人的裏付け、財政的裏付け、時間的裏付けを保障しなければならないのは、言うまでもないでしょう。


 養護教諭のための労働安全衛生Q&A
  京都教職員組合養護教員部発行(その2)

Q3.衛生管理者になっても「今までしてきてくれた仕事と変わりない」と言われましたが本当ですか?
  今まで通りと思われる場合もあるとおもいますが、事故等が起きた時には責任が問われることがあります。
 また、最初だけ今まで通りで、後になって事業者や管理職のする仕事まで押し付けられることも考えられます。
 その場合は、養護教員部と養護教諭みんなと相談し、改善を求めましょう。
 いまこそすべての養護教諭に京教組養護教員部に入ってもらい、いっしょに「いのちと健康を守る」取り組みを展開しましょう。

Q4.京都市教委は教頭を衛生管理者(推進者)にしていますが、養護教諭がなるのとどうちがうの?
  京都市教委は、教職員のいのちと健康を守るのではなく教職員支配のために衛生委員会及び衛生推進者を利用しようとしていることは明らかです。
  企業では安全衛生体制は、しばしば労働者の首きり、リストラ、事故かくし、労使協調に利用されています。
 そのことを知ったうえで、京都市・京都市教委は管理職を衛生管理者、衛生推進者にしようとしているのです。
 産業医も京都市教委の意図する医師を選んでくることが考えられます。
 このことも大きな問題があります。
 先進国ではその場合、労働者が拒否する権利を設けている国もあります。
  他府県では管理職が衛生管理者になったら教職員の健康がすべて知られて、いじめや嫌がらせを受けているところもあるそうです。
 以上のことから養護教諭がなって教職員の立場に立った衛生と安全を考えるのと、行政や教育委員会の立場に立って衛生と安全を考えるのと決定的な違いがあります。
 教職員の健康と安全に力をかしたいと思う場合は、労働組合が推薦する安全衛生委員になるのもひとつの方法です。

 Q5.仕事が増えて今までの養護教諭の仕事ができなくなる心配があるけどどうすればいいの?
  人も増やさず衛生管理者、衛生推進者の仕事をさせるのは断りましょう。


Q6.養護教諭が衛生管理者になったら職場の人達にどう広めていったらいいの? 
 教職員の労働安全衛生の取り組みの経験は蓄積されていません。
 そのため、職場の教職員のいのちと健康を守る要求を実現する取り組みを、すすめていけばいいのです。
 そして、学校として改善しなければならない点は、管理職に堂々と衛生管理者、衛生推進者の立場から主張すればいいのです。
 それが通らなければ当然労働組合の交渉と闘いをすすめるようにしましょう。
 これは憲法に保障された当然の権利です。

Q7.産業医とか健康管理医とかどういう役割なの?
   「君は元気に働いているか」(同上)には、産業医について以下のように書かれています。
 産業医は、労働衛生の専門的知識から職場を巡視するとともに、健康相談や健康診断を通じて労働者の健康状態を把握したうえで、事業者、総括安全衛生管理者、安全衛生委員会に職場改善を助言、勧告する役割を果たさなければなりません。
(1)産業医が専属で必要なところ
どの職場でも産業医が決められていなければなりません。(だだし50人以上)が、とくに次の職場では専属の産業医が必要です。(則第13条2)
① 常時1000人以上の労働者がいる職場(3000人以上は複数)
② 常時500人以上の労働者がいる職場で有害業務を行っている事業場

(2)産業医の職務(則第14条、第15条)
① 健康診断やその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
② 作業環境の維持管理に関すること
③ 作業管理に関すること
④ 健康教育・健康相談・健康障害の原因調査と再発防止に関する措置や勧告
⑤ 衛生教育に関すること
⑥ 少なくとも月一回作業などを巡視し、健康障害の防止の措置を講ずること。
⑦ 安全衛生委員会に出席し、活動を報告し、意見を述べる。
⑧ これらについて事業者または総括安全衛生管理者に対し勧告し、衛生管理者を指導し助言する。

(3)産業医の選任が名目だけになっている職場が多い。

 産業医は、現場や労働衛生についての関心や知識、責任感、行動力が必要で、同時に労働者との交流が必要です。
 労働者は自分の職場の産業医が誰なのか、その産業医はその職務をやっているのかを点検し、やりにくい障害があれば対策を考える必要があります。50人未満の事業所でも産業医は必要です。
また、「健康管理医」という名前で職務を縮小しているところがありますが、これは法に反しています。

(4)学校では校医が産業医の職務を行えば産業医を別に定めなくてもよいことになっています。(則13条2項)しかし、校医のほかに産業医を選ぶことも自由です。
(注)労働省も30人以上の職場におくなど産業医制度の見直しの作業を始めています。また、医師会などで講習会が行われていますが、たえず労働衛生の進歩についての学習が必要です。

  Q8.安全委員会とか衛生委員会とかいってるけど、どういう役割なの?
  労働安全衛生法上で安全委員会、 衛生委員会及び安全衛生委員会は定められていますが、教職員の労働から考えて安全と衛生は切り離せません。
 公務員の中で特に教職員の災害が多いのはどうしてでしょう。
 警察よりもはるかに多く災害を受けているのは、教育という仕事と重大なかかわりがあることは明らかです。そのことから安全対策抜きにできません。
 また、安全と衛生は表裏の関係で、今日の教職員の病気や災害、死亡などを考えてみても、どこからどこまでが安全か、衛生かの区別などできないでしょう。
 したがって労働安全衛生法の安全委員会と衛生委員会と合わせた安全衛生委員会が必要になりますが、この安全衛生委員会ができれば労働安全衛生が進んだということではけっしてありません。
 形を作っても中味がなければ何もなりません。
 安全衛生委員は事業者と労働者の意見が一致しなければ決定することもできませんし、決定したことが法的拘束力もありません。
 だから安全衛生委員会ができたからといって、労働衛生がすすむわけではないのです。
 他府県では組合員を排除した衛生委員会がつくられ、教育委員会の言いなりの「心の持ちようによる健康」が進められています。
 しかし教職員組合が闘いを背景に、安全衛生委員会に参加すれば一定の要求も実現するし、調査や立ち入り等も可能になります。
 このことをしておかないと、安全衛生委員会を通じて組合が労使協調路線に走ってしまいかねません。
 労働安全衛生法成立後、多くの労働組合が衛生委員会や安全衛生委員会ができたことによって安全と健康の問題をすべて安全衛生委員会などにゆだね、生命と健康を守る闘いが弱まったと言われています。
 私たちはその歴史的教訓をふまえ、新しい真に教職員のいのちと健康を守る運動をしていく必要があります。
  京都府人事委員会は「衛生委員会、安全衛生委員会は調査審議機関である」という解釈をしています。
 これは行政の通例解釈です。

 したがって安全衛生委員会を労働衛生をすすめていく中心的機関とは考えていません。
 実態は、健康診断日程を決めたり、調査するに過ぎません。
 安全衛生委員会をつくった自治労連の多くの組合は、安全衛生委員会では多くの限界があり交渉や闘いを背景にしたほうが問題の解決が早いとも言われています。
 労働安全衛生法には安全衛生委員会の設置は義務ずけられていても、その運営決定は一切法的には義務付けられていません。

 なお、衛生管理者、衛生推進者は、安全衛生委員会のもとには置かれません。あくまでもスタッフであることを注意しておきましょう。

女性教職員が教育に責任を持ち、かつ、健康を保ち、母性を保護しながら働くことができるように


山城貞治(みなさんへの通信61)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その40)


動きが速かった女性部の母性保護の取り組み

「母性保護を生後から死ぬまでの間で捉えていかなければならない。」
「更年期障害は、生理休暇を取っていたかどうかと大きく関わる。調査では、生理休暇を取れなかった女性ほど更年期障害がひどい、という結果が出ている。」
「母性保護という言い方ではなく、女性保護ではないのか。」

などの討論を経て府高女性部は、次のような要求を府教委に突きつけていく。
                   府高女性部要求書 2006年2月
京都府教育委員会
委員長 藤田 晢也 様
教育長 田原 博明 様

 女性教職員が教育に責任を持ち、かつ、健康を保ち、母性を保護しながら働くことができるように、以下の点を強く要求します。(注:以下要点を掲載。この要求は労働安全衛生政策作成時に付加されて、2006年以前からも続けられている。)

 事業者責任において、年次休暇・生理休暇をはじめとする諸権利を安心して行使できるような教職員定数にしていただきたい。 本来正規採用すべき「定数内」(臨時的任用)については、ただちに正規職員を任用していただきたい。

2.事業者責任において、各職場における教職員の健康状態・勤務状態の実態を把握すると同時に、健診結果にもとづく適切な事後措置を指導区分提出後遅くとも1ヶ月以内に講じていただきたい。 「労働軽減」などの措置区分が実行可能となるよう、講師配置などの措置を講じていただきたい。
 また健康上の理由でプールに入れない教員がいる学校に水泳指導補助教員を配置していただきたい。

3.病気休暇後に無理なく勤務に復帰できるよう、リハビリ勤務の制度を拡充していただきたい。 3ヶ月以上の病休復帰1名から軽減講師を配置するとともに、すべての職種を対象にしていただきたい。

4.介護休暇制度を拡充していただきたい。 短期間でも講師を配置していただきたい。
 どの時期からも連続して一年間とれるように期間を延長していただきたい。
 年間10日の家族看護のための特別休暇を新設していただきたい。また、管理職が介護休暇制度について熟知し、手続きが速やかに行われるよう指導していただきたい。

5.更年期障害休暇を特別休暇として制度化していただきたい。 実態に応じて、労働時間の軽減、軽減講師の配置等の措置を講じていただきたい。

6.事業者責任でメンタルヘルス対策を講じていただきたい。メ ンタルヘルスの悪化を引き起こす過重労働の解消、管理・監督者への教育、早期発見・治療や再発防止への対策など、実効あるメンタルヘルス対策を講じていただきたい。

7.事業者責任ですべての女性教職員を対象にしたX線による乳ガン検診・子宮体ガン頸ガン検診・骨粗しょう症検診を実施していただきたい。 当面、現行の共済組合の実施している「乳がん・子宮頸がん検診事業」対象の健診機関を大幅に拡大するとともに、指定の健診機関以外でも婦人科健診を受ける場合、専免を適用していただきたい。

8.すべての職種の女性教職員に対して、妊娠判明時から産休までの全期間、労働軽減のための軽減講師を配置していただきたい。 当面、時に危険な作業をともなう現業職員及び化学薬品を扱う教科の教諭及び「実習助手」に軽減講師を配置するとともに、障害児学校でのいわゆる「中抜き」をやめ、全期間軽減講師を配置していただきたい。

9.育児休業中の有給保障を国の責任で行うよう働きかけるとともに、育児時間についても、1日2時間とし、生後3年まで延長していただきたい。 同時に労働軽減措置を講じ、軽減講師を配置していただきたい。
「子育て休暇」が真に「子育て支援」になるよう、従前の授業参観特休などの権利を網羅して、内容の充実(取得日数延長・対象を高校まで引き上げ)をはかられたい。

10.臨時教職員の労働条件を改善していただきたい。 教員採用にあたって、講師経験が生かされるよう優遇措置をはかられたい。
 特休・介護休暇・介護欠勤・育児休業を臨時教職員にも適用していただきたい。
 臨時教職員の公務上・公務外を問わず、病気休暇に代替講師を配置していただきたい。
 妊娠軽減講師にも「解雇予告」を適用していただきたい。
 障害児学校に配置されている看護師にも妊娠判明時から軽減講師を配置していただきたい。
 産前休暇期間の延長、無給を有給にするなどの改善をしていただきたい。

11.「人事異動方針」の「通勤時間片道1時間半」を「往復1時間以内」に短縮していただきたい。 特に育児・介護を行う教職員については、事業主の配慮を義務づけた「育児介護休業法」第26条を遵守していただきたい。また、希望人事の実現をはかっていただきたい。

12.すべての職場(定時制・通信制はそれぞれ独自に)に、男女別休養室、男女別更衣室、洋式トイレ、教職員や児童生徒の実態に応じてエレベーターや手すりを設置していただきたい。 休養室については、クーラーを設置し、全ての職種の教職員が利用しやすい条件を整えていただきたい。
 また、すべての職場で徹底した分煙のための施設・設備を整備していただきたい。

13.セクシュアル・ハラスメントのない職場づくりは管理職の責務であるという基本に立って、管理職を指導していただきたい。 セクハラが起こった時に、生徒も含めて安心して相談できる被害者救済の立場にたった相談窓口を設置し、被害者の人権を守る立場で対応していただきたい。

養護教諭が健康で生き生きと働き続けられるため
また、様々な悩みや、健康発達上の課題を抱えて
養護教諭のところにくる子どもたちの要求に答え
その生命と健康を守り育てることができるよう
  と府高養護教員部も要求

府高養護教員部要求書も府教委に要求書を提出している。
その一部を掲載する。(注:労働安全衛生政策時から要求している。項目も多い。母性保護の項だけ掲載する)

 養護教諭が健康で生き生きと働き続けられるため、また、様々な悩みや、健康発達上の課題を抱えて養護教諭のところにくる子どもたちの要求に答え、その生命と健康を守り育てることができるよう、下記要求事項に誠意をもって応え、早急な解決がはかられるよう、強く要望します。

II.母性保護について
1. 養護教諭の妊娠にあたって、流産、早産をはじめとする妊娠・出産異常の多発の状況を改善するため、真の母性保護の観点に立ち、妊娠時の指導軽減措置(養護教諭の免許を有する人) については、妊娠初期より、生徒数、時期の制限をなくし、全ての養護教諭(複数配置校を含む)に保障されたい。
2. 病休(1カ月未満も含む)、産休、育休の代用にも備えて、有免者を常に確保されたい。
3. VDT機器の電磁波防御の設備をはじめ、母性保護の視点での施設・設備対策をはかられたい。
4. 生理休暇が気兼ねなく取得できるよう条件整備をはかられたい。
5. 更年期における体調不良に際し、更年期障害休暇の確立をはかられたい。

衛生管理者については、資格があることを理由に保健体育教師や養護教諭に任務を強要することなく、の要求の背景

多くの項目は、省略したが、府高養護教員部要求書の要求書には、
必ず
V.その他
1. 衛生管理者については、資格があることを理由に保健体育教師や養護教諭に任務を強要することなく、現場の総意とされたい。
2. 健康管理医による健康相談においては、相談場所、医師との連絡調整等の面で、児童・生徒にかかわる養護教論の日常業務に支障のないよう配慮されたい。
3. B型肝炎の抗体検査及び予防接種を、希望する全ての教職員に実施されたい。実施にあたっては行政の責任において対応し、会場校の現場、教職員に負担とならないよう改善されたい。また希望する教職員が受けやすいよう条件整備をされたい。
4. インフルエンザの予防接種を、希望するすべての教職員に予算化されたい。
5. 危機対策(感染症・地震・原発事故・その他の災害)のための費用を予算化されたい。また事故や問題が生じた場合については手厚い対策を講じられたい。
6. 養護教諭の研究の自由を保障し、研修の押しつけがないようにされたい.研修については自主・民主・公開を原則とし、研修内容の自由な批判、検討ができるようにされたい。
7. 京都教育大学をはじめ京都の各大学に、養護教諭養成課程の設置が実現するよう、各大学と話し合い、具体的に働きかけられたい。
8. 教育免許法による賃金格差や認定講習の押しつけがないようにされたい。
9. 任命主任制に反対。保健部長の民主的選出を尊重し、中間管理職的業務を指導しないようにされたい。
10. 目的も不明確なまま、統計や資料の提出を強要する保健教育行政は改められたい。
11. 高等学校設置基準第9条の養護教諭の配置を「おかなければならない」に戻すように国に働きかけるとともに、この条項を理由に未配置校を作らないようにされたい。また、分校や通信制課程にも養護教諭の配置基準を設けるように国に働きかけられたい。
が書き加えられていた。
 特に、
「1. 衛生管理者については、資格があることを理由に保健体育教師や養護教諭に任務を強要することなく、現場の総意とされたい。」
については、労働安全衛生法上は、特例として学校現場に限って養護教諭や保健体育教師が衛生管理者になることが出来るという項目があった。
 そのことは、すでに述べた「教職員の労働安全衛生入門」作成以前から養護教諭が教職員の健康診断の責任を負わされているのは、学校教育法の「養護教諭は、児童の養護をつかさどる。」とされていることへの逸脱である。 故野尻與市が労働安全衛生法成立以前の1960年代から養護教諭に「衛生管理者」などの役割を与える国の動きの無責任さと危険性を「健康教育概論」で厳しく批判しているをとを充分学習していたこと。
 養護教諭の労働の負担が非常に増えているときに、本来の労働でない責任が問われる「衛生管理者」の仕事をさせられるべきではない。
と言う考えに立っていた。

他教組からも府教委からも
「養護教諭が衛生管理者に」
という考えに養護教員部はキッパリ・スッキリ

 ところが全教の労働安全衛生法「適用」を主張する担当者や少なくない府県で教職員組合が「養護教諭が衛生管理者になろう。」という取り組みをしていた。
 府高養護教員部も京教組養護教員部もそれらに対して反対したが、
「管理職に教職員の健康を委ねるより、養護教諭がしたほうがいい。」
などの強力な意見が出されてきた。
 府立学校では、以上の事を1997年以前から承知していて保健体育教師や養護教諭を衛生管理者にすることは、おかしい、と反対していた。
 府教委は、府人事委員会の指導もあり、事務部長に衛生管理者の資格を取らせるようにしていた。しかし、衛生管理者の資格は国家試験。事務部長は、しばしば試験に不合格になりあきらめたいという声も出ていた。
 そのため養護教諭に衛生管理者を、という意見は府教委からも出されていた。
 全教と府教委からの「養護教諭が衛生管理者」という考えの「板挟み」状況に京教組・府高養護教員部が置かれることになった。
 そこで、全教職員に養護教員部としての考えを知らそうと言うことになった。

2011年8月12日金曜日

暗黒の時代 戦前に生理休暇や産前産後休暇が勝ち取られた


山城貞治(みなさんへの通信60)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)

 この間、ブログへの投稿をいただきました。そこで少し参考にと思い書かせていただきます。

私もブログは、労働の安全衛生、とくに精神衛生がメインテーマとなっています。上記のような問題も、深刻な問題と思っております。それでは私のブログも、よろしくお願いします。 

府高労働安全衛生対策委員会では、多くの精神衛生(メンタルヘルス)を取り上げ聞きましたが、その一部を紹介します。

もう、一生懸命はやめよう、と言いたい

 まず、
「どうすれば過労自殺はなくなるのか」
という毎日新聞の記者の質問に対する川人博弁護士の意見
を毎日新聞から。

三つの大切なことがある。
 

仕事で失敗しても許容される職場、
 義理を欠いてもよい職場、
 そして、失業してもやっていける社会をつくることだ。


 超長時間、深夜労働が増え、労働者は
ゆとりを失っている。また、不況下でリストラが進行し、職場ストレスが増している。 
 人が減り、仕事が増え、責任もますます重くなった。
 中高年はリストラの対象にならないよう、以前にもまして企業に忠実に行動している。
  失業しても生活に困らないよう『セーフティー・ネット』を整備し、失業者が精神面でリラックスできる社会環境づくりを急ぐべきだ。

  そして、『もう、一生懸命はやめよう』と言いたい。

  『命をかけて』ではなく、『命を大切にして』働くことが、過労自殺をなくすことにつ ながる。 」


学校全体が、特別なカウンセラーという職業がいらないように変わらなければ

{京教組養護教員部編・石田一宏講演記録「感動の贈りものを光の中の子どもたちへー精神科外来からみた子どもの指導②ーより抜粋}

 子どもが病んでいるとしたら、これは身体でも病んでいるわけですから、まず心と同時に身体のことも統一してきちっとわかる人が子どもの健康の問題についてかかわるべきだと思います。
 子どもの心だけかかわる。
 なんて、そういう便利なことはできない。

 もし心の問題にかかわるとしても、学校全体が何か暗ァーくなっている時に、あのカウンセラーの所だけ明るいというんじゃ……これはおかしいです。
 私は学校全体が、そんな特別なカウンセラーという職業がいらないように変わらなければならないと思います。
 カウンセラーなんかを必要とするというのは、それだけ自分の学校が暗くなっているということを、自分で白状しているようなもんだと思います。

 養護教諭の先生方が今ここでがんばっているのは、暗くなった学校の問題を解決するためであって、「駆け込み寺」を存在させるためにがんばっているだけではないと思うんです。
自分なりの問題解決に到達する、それがカウンセリング
{東京社会医学研究センター機関誌「労働と医学」NO56「働くものの精神衛生」講演記録より一部抜粋}

  メンタルヘルスということばが非常に多くでています。
 だいたい共通しているのは、問題発見型なんです。
 そして、もしそこでなにか悩みごとがあれば、あるいは個人的な問題があれば、それでカウンセリングを受けるということになるのですね。
 カウンセリングというのは本来はどういうものかといいますと、私なら私、一人の人間がなにか解決したい問題を持って訪ねて、そしてそこで助言をしてもらう、あるいはその人に話を聞いてもらうことによって自分なりの問題解決に到達する、それがカウンセリングなんです。
 ……今職場でも、そういうメンタルヘルスについて誰か専門家を置けば、なにか解決するんではないかという期待は非常に高いんですけれど、そういうことは絶対あり得ないんです。
 ……現在盛んなのは、そういう心理学主義的なものの考え方が基本になっているとしたら、私たち労働者の立場で、いらいらしたり、ストレスを感じたり、こんな職場は嫌だよというような問題をどうとらえるか、そのポイントは……。

ストレスをを考える6点を考えてみて

第一に、人間の心理だけでものを考えるのでなくて、人間は心と体がいわば統一して存在するんだ、その心というものは身体が支えているんだというふうな観点をしっかり持たなければならないと思います。
第二に、時間のストレスこそ、最大のストレスです。
第三番目は、疲労には、肉体的疲労と精神的疲労の二つがあると言うことです。
第四番目は、今非常に大問題なのは、家庭生活や私生活が破壊されていることです。
第五番目には、家庭には次の世代の大人を育てるという機能があるわけです。ところが、子どもを育てる機能が、家庭の中で今非常に貧しくなっている。
第六番目には、女性と母性を守ることの大切さがあります。


心をいやし、ストレスによる疲れをとってくれる「安心感の場」。

 働くものの精神衛生というものを考えるときに、忘れてはならないキーワードは、超過密労働による「時間」のストレス問題、超過密労働の結果からおこる「疲労」、家庭でゆったりできる、友達とゆったりできる、心をいやし、ストレスによる疲れをとってくれる「安心感の場」。


産前・産後休暇も生理休暇も育児休暇もなかった時代

 私の祖母が教員をしていた時(1950年代)は、まともに育休制度すらなかった
 女性教員の問題も、考えなければいけませんね。 ご存じの通り、私の母親も教員でした。
産休・育休制度は当時からあったのですが、やはり普通に考えれば、期間は不十分なのですね。
 休養室などの基本的な条項も、学校であってもあまりできていないのですね。一応私の今の仕事も立ちっぱなしですが、妊娠教員が立ちっぱなしは問題ですね。一方、妊娠した時の代替え教職員の制度はある程度できており、私の母が常勤としての教諭をやめた後、その代替え教員で臨時に入ったこともあります。
なお、さらに昔、私の祖母が教員をしていた時(1950年代)は、まともに育休制度すらなかったそうです。
 労働時間ふくめ、とくに女性に関しては、労働条件の改善が強く求められます。

高校の授業の一部を紹介させていただきます。

 10年以上前から労働安全衛生を高校の授業で教えていました。その時の授業テキストの一部を紹介させていただきます。
生理休暇や産前産後の休暇が女性と男性労働者が
手を携えて勝ち取られてきた成果である事に生徒は感動

 戦前の女性労働者は、農業や機織りをのぞいて工場で働く若い未婚の紡績女工から看護婦、小学校、幼稚園の先生、産婆さん・お手伝いさん、バスガールなどとその働く場が増えてきたことがテキスト「健康で安全に働く」(文理閣注:現在改訂されて、健康で安全に働くための基礎で発行されている。)書かれている。
 しかし、戦前の家事労働は、今日では、考えられないほど大変であったことも明らかにされている。

長野県では女性教師たちが運動して、1908(明治41)年に
   長野県に「女教員妊娠規定」をつくらせた

次に、明治以来の女性の職業のひとつだった女性教師の労働について考えてみる。
                                            
 明治時代の日露戦争以降義務教育が延長されたことや学校に行ける生徒が増えたことによって、教師が不足した。
 1907(明治40)年の長野県では、4649の小学校教員(臨時も含む)がいた。
 そのうち1093人が女性教師だった。
 でも女性教師の約半数は、臨時教員 だった。そのため給料は男性教師の半分以下。
 生理休暇もない、母性保護に関する保障はなく、男性教師と同じように働くことが命じられているいた。

 1918(大正7年)の女性教師の訴えによると、

「起床5時半、お乳をつくり、小川でおむつの洗濯。7時20分登校、5時帰宅、それから子供の世話、子どもがつごうよく眠ってくれればその間にそうじ、夕食後縫い物等々で新聞もろくろく読めません。子どもが出来てから教育雑誌さえ十分読めなくなりました。」

と、学校における優秀な教師が、家庭では「ダメな主婦」になっていると自ら言わざるをえない状況であった。

 このため長野県では女性教師たちが運動して、1908(明治41)年に長野県に「女教員妊娠規定」をつくらせ、女性教師に産前産後の有給休暇2カ月 を認めさせている。

 すなわち、女性教師は、赤ちゃんを産む前や赤ちゃんを産んでからも、ほとんど休んでいなかったのである。

2011年8月11日木曜日

いのち・生きる権利・働く権利と人間そのものの尊厳を守り抜く


山城貞治(みなさんへの通信59)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その39)


母性保護か 女性保護か の政策論議の中から

労働安全衛生対策作成時、女性部から
(14)項では、「生理休暇」よりも「更年期障害」が問題になっている。
 更年期障害休暇が取れるよう、が優先事項ではないか。生理休暇は今の学校では、とてもとれそうでない。
(15)の産前産後休暇8週を短縮してとる若い先生が増えている。例えば、産後6週(労働基準法上は、本人の申し出があれば。)で学校に戻ってくる若い先生は、「休んでいたらとても学校のペースについて行けなくなる。」と言っているなどの意見が出された。
 その時、労働安全衛生政策アドバイザーとして参加した滋賀医大の先生から共に女性としての立場から次のような発言があった。
「母性保護を生後から死ぬまでの間で捉えていかなければならない。」
「更年期障害は、生理休暇を取っていたかどうかと大きく関わる。調査では、生理休暇を取れなかった女性ほど更年期障害がひどい、という結果が出ている。」
との説明があった。
 これに対して女性部から
「母性保護という言い方ではなく、女性保護ではないのか。」
という意見が出されたが、
「ILOでは、母性保護条約(Maternity Protection)母性保護と母性を理由とした差別の禁止を規定する、とされている。近年は、深夜業は男女とも禁止すべきという考えが出されているが、母性は単に子供を産むという狭義の意味ではありません。」
という説明があり、女性部も納得し、「労働安全衛生対策について」がつくられた。

母性保護アンケートをきっかけに女性部の取り組み進む

 府高女性部は、早速このことが全面的に取り上げられられ、府高女性部ニュース「秋桜」に次々と各職場の報告が掲載された。以下その当時の一部を掲載する。

「昨今、忙しさに紛れてからだの不調を訴えながらも受診できずに時間が過ぎてしまう、ということも多くなっています。
 同じ職場に働く仲間として『休んで、病院に行って来たら?』と声を掛け合うことが、お互いの健康を守る上で非常に大事になってきているのではないかと思わずにはいられません。
 母性保護アンケートをきっかけに、
 もう一度自分の健康、仲間の健康、職場環境をチェックしてみましょう。
 生理休暇の取得や勤務時間・持ち帰り仕事の実態などお互いの経験を交流し合う中で、職場の問題点や行使されないままになっている権利の状況などが明らかになっていくと思います。

女性部の取り組みの加速で 少なくない要求の実現

T高分会が9月に女性のための休養室設置をが実現。
                                          盛大な「休養室開き」を開き、休憩などで頻繁


 ここ数年来、女性部としての切実な要求であった“休養室”がついに実現しました。
 (1970年代には、茶室が休養室の代用として利用されていたとか。その後の人事異動で当時の様子を知っている教職員もいない中で、あらためて女性部として、本年度の活動方針の中に休養室確保を掲げて要求してきました。)
 7月の校長交渉の席上(分会役員が職場要求に基づいて管理職と交渉)校長は休養室の実現を確約し、9月になって事務部長が動き始めました。
 物置と化していた元宿直室を整理し、大掃除をし、バルサンを数回たき蛍光灯を新しいものと取り替え、畳の上敷きを張り替え、入口からの目隠し用に通販で衝立を購入(実は、これは事務室の施設担当者の手によってアッという間に整備されたのです。)
 座布団、コタツ、コタツ布団、扇風機、座卓等の備品も設置され立派な休養室が誕生しました。
 9月25日には盛大に「休養室開き」を開催し、その後は、体がしんどい時だけでなく、昼食後の休憩に、女性たちのおしゃべりにと頻繁に利用され、好評です。
 「労安法」では、使用者に“仰臥できる男女別休養室の設置”が義務づけられています。管理職は、この法律を遵守し、女性部の要求に誠実に対応してくれたと思います。
 
府教委の要項を知らせる校長とそれを放置する校長の落差

 また、府教委の「セクハラ防止要項」に対する投稿も「教職員のいのちと健康」に寄せられた。
   京都府教育委員会は1999年4月1日付けで「セクハラ防止要綱」を施行しました。
 早速、管理職が全文読み上げてその周知を図った学校があった、と聞くものの2か月たっても要綱が施行されたことも知らさせられていない職場があると聞いています。
 「セクハラ防止要綱」の内容と問題点を横に置いておくとしても,周知徹底する校長とそれを放置する校長の落差についての問題を先ず指摘しておかねなければならないでしょう。
 そこには府教委の怠慢な姿勢があると思うのは私だけでしょうか。

定義されていない
 府教委のセクハラ防止要綱にセクハラの本質も人権も

 以下、「セクハラ防止要綱」の問題点について述べてみたいと思います。
  第一番の問題は、要綱にはセクハラの本質がまったく欠落しているという点です。 セクハラが「女性への人権侵害である」点がまったく明らかにされていないのはどうしてでしょうか。
 人権といえば,「同和」を熱心に主張する府教委と管理職なのに、どうしたことか?と首を傾げざるを得ません。
 要綱には残念ながら「人権・権利」という文字はどこにもありません。これは驚くべきことです。
 セクハラとは何かの定義と説明がないのもひとしいからです。
  朝日新聞99.6.2の特集記事には、セクハラを受けた女性のナマの体験が紹介されています。
 身体の危険と恐怖を味わい、結果として退職をヨギなくされたケースが多数述べられています。
 
セクハラはいのち・生きる権利・働く権利と
 人間そのものの尊厳に対する冒涜

 セクハラは女性のいのち・生きる権利・働く権利と人間そのものの尊厳に対する冒涜なのであるということが読み手に伝わってきます。
 それに比べて府教委の「要綱」はセクハラに対する認識がきわめて低いと考え込まざるを得ません。
 みなさんはどう思われているでしょうか?

  そこで府教委がなぜ「要綱」を制定したのか?
その目的はなに?
と考えてみると「行政の確保・児童生徒の利益(権利ではない)の保護・職員の職務能率の発揮」でしかなく、行政遂行のために要綱を制定したことを隠していない(この要綱のモデルとなった人事院モデルも同じです。)ように思えます。
 「セクハラ防止は行政の遂行のための方策のひとつに過ぎない」としか考えられません。
 そこにはセクハラを受けた人の怒りや悲しみや人権に対する認識は一切登場して来ません。

教職員の労務管理の道具に
利用しようとしている行政当局の「目的」

 このことは「労働安全衛生」を道具に?に教職員の「いのちと健康」までも教職員の労務管理の道具に利用しようとしている行政当局の「目的」とあまりにも類似している、と思うのは私の考えすぎでしょうか?
  「要綱」制定の目的(要綱の第1)が以上のようなものだから、学校現場の責任者としての校長の責務(要綱の第3)が、「職員の能率が十分に発揮できる」ことが重点になってしまうのでしょう。ここまで考えてみると、もう要綱の限界が明らかとなります。
行政の責任を「みんな」にかぶせてしまって、「起こした本人」への責任だけを事前に想定

  第二番目の問題は、「セクハラ防止要綱」が「誰に対してどうしろ」と言っているかが分からない、ということがあります。 結論から先に書くと「(教職員)みんなで注意しましょう」という程度のものではないかということです。
 「要綱」は、<セクハラ発生にいたる教職員や子どもへの管理・統制の強化>について不問にしています。
 なぜ教職員間のセクハラが発生し、教職員の児童・生徒へのセクハラが生じていくのかについての原因らしきことについての言及は一切ありません。
 行政サイドに何も原因はないのでしょうか?
 これでは、行政に実に都合のいい効果を生むものではないでしょうか。
 セクハラ発生にいたる根本的な「原因」への言及のない「要綱」の姿勢は、結局行政の責任を「みんな」にかぶせてしまって、「起こした本人」への責任だけを事前に想定しているだけではないでしょうか。
 このことはケガや病気になった時に、労働安全衛生法などで明らかにされてきた事業者の「安全配慮義務」をどこかに隠して、「本人不注意論」で当局責任を逃げ回っている姿勢と同じではないですか。

「みんな(教職員)」が悪く「行政は悪くない」

  第三番目の問題は,そのために「要綱」は,(職場,事業所の)みんなに「意識」と「心がまえ」を強烈にアピールしていることです。 それは、簡単なことですませています。コトが起きた場合に,結局「みんな(教職員)」が悪く「行政は悪くない」ということを言いたいのでしょう。

行政の責任を巧妙に逃れるための「研修」
  「やらせ」の「研修会」は身につかない

 第四番目の問題は、そうは言っても行政の責任を巧妙に逃れるためには何かをしなければならないということになり、それは結局、「研修」である、となってしまっています。 古今東西,「やらせ」と言われる「研修会」ほど身につかないものはないでしょう。
 研修すれば、「研修した」という既成事実が積み上げられるだけです。
 コトを起こした場合は,「発生させた本人が悪く」,「管理職は『要綱』を説明したのに……」「研修したのに……」というの逃げ道を準備するだけだという考えは言い過ぎでしょうか。
 
自己保身の予防線を張ることにのみ
 エネルギーを発揮するが如きの愚劣な行為

 教職員が現職死亡した現場の校長が「自分はちゃんと医者に行けと言ってきたのに……」「転勤できて本人が喜んでいたのに……」と言い、病院に行く間も与えなかったことや強制異動に切々と訴えた教職員の訴えを門前払いしたことをひたすら隠し続け、自己保身の予防線を張ることにのみエネルギーを発揮するが如きの愚劣な行為に良く似ている。
 いいいえ、そのものとまったく同じ状況の立場と言っても言い過ぎではないでしょう。それだけ、深刻な状況が現にあります。

セクハラ発生を予防するなら教職員と児童・生徒への
    人権(諸権利)を完全に保障する姿勢に立べき

 第五番目の問題は、,学校という教育の場で発生する(した?)セクハラをまじめに研究して、その発生を予防するなら,教職員と児童・生徒への人権(諸権利)を完全に保障する姿勢に立べきでしょう。 今日の学校現場は、「管理運営規則」による教育行政(管理職)側からの教職員への「管理」の徹底(諸権利の抑圧・制限)と児童・生徒への「特別権力関係論」と言われる立場に立った「子どもは指導される側の人間」やガマン主義・根性主義の「ガマンも大切」などによる子どもや教職員への権利侵害の「デパート」状況をすぐにあらためることです。
「要綱」はここへの言及を意図的にしていません。
 お隣の大阪府教委のセクハラ防止問題での「手引き」(1999年3月26日)には、
「児童・生徒に対する教育……人権侵害を許さない姿勢を養う」
「『子どもの権利』に関わる教育、男女平等教育、性教育を計画的に実施する」
など、セクハラを権利侵害と捉えた立場での提起が文字として明らかにされています。
  みなさんのご意見をぜひお寄せ下さい。    

2011年8月9日火曜日

立ちっぱなしの教師の労働 妊娠した先生は休めない


山城貞治(みなさんへの通信58)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その38)


ホルモアルデヒドの除去問題など
数え切れない有害なものが存在する学校

「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の
(12)学校における有害性のあるものや物理的性質(引火性、爆発性、揮発性など)、発ガン性(変異原性)、アレルギー、遺伝性毒性などの予防策(設備、装置、予防具など)と緊急対策を行わせる。有害物の基準は、日本産業衛生学会の許容濃度基準を尊重すること。
については、調査すればするほどあまりにも多くの問題があり、府立学校ではの課題はまだまだ不充分なものとなっている。
 ホルモアルデヒドの除去、アレルギー源の除去、生徒のトイレ掃除などを含めた薬物の問題、農業科、工業科などなどの有害物質問題やその保管。
 数え切れない問題がありながら少しずつ取り組まれたが、くり返すがこれらのほとんどすべては京都府・府教委がなしたことで、学校の責が問われることはなかったが、問題が起きるとすべて学校、学校長、関係教師の責任にされることがあまりにも多すぎた。

問題が生じれば府教委が責任をとらず
 学校・学校長・担任教師に責任をとらせる体質

 例えば、実験用の薬品庫があまりにも貧弱で厳重管理が出来ないため改善を要求していた。
せめて南京錠は改善して欲しい、と言う要求があったが、府教委は改善しなかった。
 ところが他府県で、学校の薬品庫から劇物が盗まれたと報道されたとたん府教委が府立学校を調査し、「南京錠だけで薬品を管理していた。」と教師の責任を問うなどの問題があり、その教師は異動させられたという問題があった。
 現場の安全上の問題には優先的に対応するという姿勢が府教委にはまったく見られなかったため多くの問題と多くの行動が必要であった。
 (12)の課題は、なかなか改善されなかったし、その前提には学習が必要とされた。

次の項目の取り組みを掲載したい。
  (14)人権無視の生理休暇届を改め、女性教職員が自由に生理休暇が取れるようにさせる。
 また生理休暇の必要性と女性教職員の健康との関係を明らかにし、生理休暇制度の充実を図らせる。
(15)妊娠した教職員には、妊娠が判明したときから代替え教職員を配置させる。
 また、管理職は、妊娠した教職員が安心して労働できる条件をつくるとともに生徒への協力・理解を率先して求めるようにする。
 妊娠障害、流産、死産が特に多い学校を公表させ、その原因と対策、今後の方向を明らかにさせる。


妊娠中の女子職員の業務軽減は 本当に軽減なの

(14)、(15)について変わった形で労働安全衛生対策委員会ニュース「教職員のいのちと健康」に投稿があった。

:おたずねしますが、この学校には職員の「休養室」はあるのですか?
:ええ、形としては「ある」ことになっているようです。でも私も見たことはありません。
:どういうことですか?
:なにやらどっかにあるようなことを聞いています。ですが、そんなものでは使えないので実際には「無い」と思って下さい。
:わかりました。でも何か変な話ですね!
:その通りです。この問題は毎年の要求交渉でも分会から提起しています。昨年は管理職も「セコムが入るので、宿直の廃止に伴って宿直室が空くのでその辺が使えないかは検討してみる価値がある」と言っていたんです。ですが今は他の目的に使われています。
:それじゃやはり根本的に確保してもらわないといけないですね。
:その通りだと思います。
:それから、話は変わりますが、「服務規程」が変わったと聞いたのですが本当ですか?
:ええ、その通りです。一部がこの4月1日から変わりました。うちの管理職はまだ何も言っていませんが・・・
:かくすことでも無いでしょうに!
:うん・・・・・
:ところで、どこが変わったのですか?
:えーと、複写したものがあります。どうぞ!ようするに母性保護規定のところです。
:具体的には?
:例えば、妊娠中の女子職員の業務軽減などです。勤務時間中に専免扱いで休息がとれるようになりました。
:なるほど!それは良いことですね!
:良いことだとは思います。要求運動の一定の成果でもあります。ですがどうも手放しでは喜べないようです。
:どういうことですか?
:実際に女性の方に聞いてみたら、次のような返事というか、とまどいが返ってきました。
①「持ち時間等」の軽減が無い中で、いつそのような休息時間がとれるのだろう?
②ほとんどの職場に男女別の休養室がない中、どこで休息すればよいのだろう?
 ということです。
:なるほど言われる通りですね!これでは本当の業務軽減とは言えない!
:そうなんです。私もこれを聞いて全くその通りだと思いました。ようするに包括的な母性保護の観点が抜けて、「安上がり」に改良だけをしようとするようなものです。
:使えない制度を作っておきながら、「府としては十分な施策を講じて……」などと言われるのはいやですね。使えるものにして行く取り組みが大切ですね。
:その通りです。「使いたいのに使えない、形だけはある」というのが一番危険です。何か事故でもあったときに、使用者は責任逃れできますし、結局労働者の自己責任にされてしまうことにもなります。
:それはひどい話ですね。でもそうすると前の話にもどりますが、うちの休養室の問題も同じような話ですね!
:その通りです。今、京都府人事委員会立入調査について分会で質問し、管理職に回答を求めています。この学校が、どのような回答をしているのかも調べています。でも、いまだに回答すらないんです。使えない「休養室」を「休養室がある」と報告しているとしたら問題です。
:そうですね!まずはこれを見て下さい。

              1  2  3  4  5  6
 月曜日   通        ○     ○     ○
火曜日 通    ○   ○  ○             ○
水曜日   通       ○    ○      △           職員会議
木曜日  ○     ○    ○                   部会
金曜日 通  教科 ○      ○            ○      (注:教科は教科議のこと)
土曜日 ○            ○      通  ※    ※

:週の時間割ですね。ところで、「通」というのは何ですか?それから△の意味も教えて下さい。
:ええ、「通」というのは妊婦の通勤緩和です。通勤に1時間以上かかりますし、座れないことが多いんです。それで、少しでもしんどさが緩和されればと思って利用しています。それから△は土曜日の回復措置で入る授業です。
:なるほど。先生は持ち時間が17時間なのに△が入るので18時間授業をすることになるのですね。
:そうです。回復措置のおかげで窮屈になっています。18時間持ってHRもあればもっと窮屈です。
:しかしこうして見ると本当に、自由に休息がとれるという感じではありませんね!
:そうですね、毎日空き時間は1時間から2時間です。授業の準備が精一杯で、とても授業の課題を点検整理する暇がありません。自転車操業のような毎日です。
 こういうのもあります。これはある火曜日の行動記録です。

6:30 起床 7:40出勤  8:55到着 9:40 2限授業開始 12:30 4限授業終了
 13:25 生徒清掃時間指導  14:40 6限授業開始 15:30 6限授業終了
 15:40生徒指導会議  16:50 退出  18:00 保育園到着  19:00 帰宅

:うーん。空き時間を探すと。2限開始前、清掃前の昼休み、それと清掃から6限開始までの時間だけですね。
:見かけ上はそうですが、2限開始前はその日の午前中3連続授業の準備をしています。
:それはそうですね。でも1時間で3連続授業の準備をしなくてはいけない。:また、生徒部という関係で、昼休みは生徒に応対しながらの昼食です。
:そんなに生徒がたくさん来るのですか?
:クラブ活動の延長願い、紛失物のこと、自転車登録のことなどなど。
:なるほど。
:それと6限開始前も当然授業の準備は必要です。ですから、まともにゆっくりはできていません。
 この日はこれでも通勤緩和を30分しか取っていませんし、とりあえず昼食も昼休みに食べられました。ひどいときには昼食の暇がなくて、4限や5限の空き時間に摂るしかない日もあります。
:ますます、空き時間が無くなりますね。
:そうです。ですから、あのときに、「持ち時間軽減の無い中で、いつ休息を取れるのだろう?」と思ったのです。
:しかしそれにしても過酷な労働条件ですね。それで最近体調はいかがですか?
:お陰様で、いろいろお気遣い頂いています。でもさすがに、休息どころか一服する暇がないので、腰痛で困っています。特に通勤のしんどさと、連続した立ち仕事がつらいです。
:ひどいのですか?
:ええ今回は少し……。先日も、脚に痛みがきて、階段昇降に不都合をきたすようになり、我慢できずに通院しました。その日は学校も休ませてもらいました。
:それはそれは。
:担当の医師は、「とにかく空いている時間は「横」になること。休養室での安静が肝要」とのことでした。しかし、「休養室が無いし、その時間も取れない」と反論する私に、その医師も困惑した表情をしていました。
:担当の医師も、まさか職場に休養室が無いなんていうことはありえないという認識なのでしょうね!
:ええ、そんな感じでした。その病院は労災などでの理学療法もやっているところなのですが、そのような顔をされたのは余程常識外だったからでしょう。
 最後には「保健室でもいいですから・・・」とまで言われてしまいました。
:うーん……。
:せめて毎日の授業が2時間程度で、男女別で横臥できる休養室があればいいなあ。とつくづく思います。
:本当ですね。
:ええ。ただし今回の措置がまったくダメだと言っているのではありません。運動の成果という点もあります。ただ、これで終わりにせずに、ひとつの到達点として、真の業務軽減となるような、持ち時間減や休養室整備などのレベルにまで労働運動としての要求活動を高めて欲しいです。

2011年8月7日日曜日

えっ X線室がなぜ府立高校に 無資格で教師が操作できるなんて 府人事委員会から話し合いたいとの申し入れ


山城貞治(みなさんへの通信57)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その37)


こわいのは「不可知論」とあきらめと無知である
   との細川汀先生の指摘を受けて

  細川汀先生の

「わが国では依然として労働災害、職業病、産業公害、過労死(自殺)が多発している。これらの一つ一つの実態と原因・責任を現場で調査すれば必ずそれをなくする方策が見つかるはずである。こわいのは「不可知論」とあきらめと無知である。現場で調査することさえ困難で、この壁を打ち破るためにも労働者の協力が必要だった。」

という指摘は、府高労働安全衛生委員の胸に刻み込まれていた。
  JOC(ジェー・シー・オー)の「臨界事故」についてもその深刻な状況が理解されはじめた。

府立学校にX線装置が多くあった 
 
ところが、その年の1999年府立学校G高校のX線室の防御対策の不備とX線装置の取り扱いについて、府人事委員会が労働安全衛生法上から改善を指摘している事が判明した。。
 私たちはびっくりしてG高校の様子を調べようとしたが、すべて門前払いであり、スパーエリート高校をつくるとして府高組合員は全員異動させられていて様子を把握することも出来なかった。
  単なる改善指摘でいいのか、もっとキチンと指摘すべきではないか、と府人事委員会に申し入れたが、X装置はX線は微量なもので、これ以上指摘できない。
 空港の荷物検査のX線装置と同じでX線を照射は微量なものだから資格も不必要との返事であった。
 しかし、府立学校でのX線装置の取り扱いや防御対策の不備を指摘しているのだから、危険性があるはずだ、と府人事委員会とのやりとりがあった。
 さらによく調べて見ると少なくない府立学校理科教室などにX線装置があり、放置されていること。理科の教師でもそのようなものがある事すら知らなかったこと。古くなったので廃棄処分をしようにもその処理費用がないため学校で困っている事などが判明した。

岩手県の県立高校のX線被ばく事故から
  府教委に申し入れたが

 府人事委員会は、それ以上の対応が出来ない、としていたX線装置問題は、20001年に岩手県の県立高校でX線被ばく事故が起きた。
 以下その時の新聞記事の一部を紹介する。

<被ばく>指にX線 生徒重傷 岩手の県立高校で実験中に 2002年4月18 日
 岩手県北上市の県立K高校で、昨年11月、物理の授業中に担当の男性教諭が3年生の生徒計26人の指にX線を照射し、うち男子生徒1人の指3本が「急性放射線皮膚炎」にかかり、約1カ月のけがを負っていたことが、18日分かった。ほかの25人に異常はなかった。
 同校によると、昨年11月29日、「物理2」の授業で、封筒に入った硬貨をX線で透視する実験を行った。これで実験を終えるはずだったが、教諭の判断で希望する生徒の指にX線を数秒間照射し、骨格を見た。その際、教諭が映像モニターを調整したため、男子生徒だけ普通より長い約30秒間、X線を受けた。男子生徒は12月18日になって、指3本が黒ずんではれたと訴え、盛岡市の岩手医大で診察を受けた。

 府高労働安全衛生対策委員会では、微量であるとか、云々する前にX線装置が何のために府立学校におかれているのか、またその取り扱いや安全教育や安全対策が行われていないことを府教委に申し入れたが、府教委から明確な回答はなく課題を残したままになっている。
 理科教師の中では、撤去や改善などを要求し一定の対策がとられたが、この問題はひとつの学校だけで解決できないことは明らかであった。

府人事委員会から
 労働基準法・労働安全衛生法・船員法
       のことで話し合いたいと申し入れ

 このX線装置だけではなく、府高労働安全衛生対策委員会が出来て、さかんに府人事委員会への問い合わせが管理職から集中している事もあり、京都府人事委員会の要請があり、1999年10月府高本部・府高労働安全衛生対策委員会と京都府人事委員会との話し合いが行われた。
 以下、当時の記録の一部を再掲載する。

教師の時間外の労働時間などは
把握しにくい状況にあると府人事委委員会

1,労働時間、休憩・休息問題

 今春の労働基準法「改正」にともなう条例・規則改正で、休憩時間の分割付与を「許可制」から「届け出制」にしても良いことになったが、条例では、「いっせい付与」の原則を明記した。分割する場合も休憩時間の「自由利用」が前提となる。
 全国では、「届け出制」すら課していないところがある。労使の自主的協議に任せず行政が関与すべきだと内部で相当な論議をした。
 授業などの関係もあるが、学校現場を意識して規則制定した。常にチエックを心がけている。
 個別の問題も聞く。
 府立学校の教職員、特に教師の時間外の労働時間、週休二日制のまとめ取りなどは把握しにくい状況にある。
 実態把握にむけて府教委関係の調査事項については一番時間を割いてやっている。
 回復措置、教員の時間外労働、法的整備、土日の特勤の問題がある。
 回復措置問題で、現場の方が相談にこられたケースもあるが、部活の勤務上の位置づけについては、どういう点に問題があり、改善して行くのか……。

労働基準監督機関としての
第三者機関の立場から「事業場調査」をすすめている

2,立入調査としての「事業場調査」について
 人事委員会としては、交渉などで局長が回答している立場から、府立学校の勤務実態の把握を問題意識を持って行ってきた。
 労働基準監督機関としての第三者機関の立場から「事業場調査」をすすめているが、200ぐらいの事業場をすべて廻るわけにいかない。
 そのため毎年20の事業場から、実情調査を行っている。
 従来の立入調査の「書面調査」の様式は、今年度までとし、来年度は、様式を改める予定。
 「臨検」の仕組みについても考えて行きたい。
 「事業場調査」に分会が立ち会うことや労働組合の意見も聞けという要望があるが、この調査は、「事業者・使用者」に対して行うものと認識している。
 従来「事業場調査」の結果は、教職員課がある府教委管理部に知らせていたが、今年度から保健体育課のある府教委指導部にも知らせるようにしている。

書面を見てもウソが分かるのに なぜ放置するのか

  これらに対して、府高からは、

 府立学校への「事業場調査」や府立学校が毎年出す京都府人事委員会への「年次報告」には、書面を見ても明らかに同一府立校間で差異があることが分かり、「ウソ」の報告は分かるはずではないか。
 単に書面を受け取るだけでは、労働基準監督したことにはならない。
 各府立校は、京都府人事委員会の労働基準法・労働安全衛生法・船員法(注:水産科などで船舶を所有・使用しているため)の法違反がないかどうかの労働基準監督権行使を軽んじている傾向がある。
 またそれを許す結果になっているのではないか。
 「事業場調査」が行われた府立学校が二巡目でも同じ「指導・指摘」が行われている。
 これでは、自己満足的な調査でしか過ぎず、「指導・指摘」が改善されることになっていない。
 この際「改善命令」を出して指導するぐらいのことをやってもいいのではないか。
 他府県の人事委員会では、「予算措置を含めた改善指導」まで出しているではないか。

人事委員会は 積極的に「事業場調査」を公開すべき

 府教委や府立学校の管理職は、「指導・指摘」が労働基準法・労働安全衛生法・船員法の「法違反」であるということが分かっていない。
 現に、「事業場調査」の「指導・指摘」を各学校の管理職は、すべての教職員に知らせていないし、たとえ知らせても都合の悪いところは省略した一部分を「紹介」するだけだ。
 京都府人事委員会は、積極的に「事業場調査」を公開すべきだ。
 そういうことをしないから、教職員の中に自分たちの労働条件が正確に京都府人事委員会に報告されているかどうかの危惧が生まれているのだ。
「事業場調査」すら隠す傾向が、府教委や府立学校の管理職にはある。
などの点を京都府人事委員会に述べた。

情報公開の対象になるもの 
  府教委や管理職は「指摘事項」を教職員に知らすもの

 これに対して京都府人事委員会担当者としては、「事業場調査の指摘事項」などは京都府人事委員会の文章を読めば「法違反である」のは分かるはず。
 「指摘事項」は、情報公開の対象になるもので、手続きをすれば「指摘事項」はだれでも入手できる性質のものであるが、そんな手続きをしなくても府教委や管理職は「指摘事項」を教職員に知らすものだろう。
 「指摘」だけでなく「予算措置」を含めた「改善命令」を出せという要望は、要望として受け止める。
 事業場調査の「指導・指摘事項」は、1997(平成9)年度の調査の途中から「学校レベルで対応できるもの」と「府教委が全体として解決すべきもの」とに整理するなどしている。
 近畿各県の人事委員会の中でも学校に対する調査は比較すれば劣っていないし、京都は一番きめ細かいと思う等を述べました。

1970年代に府人事委員会は
府教委が安全衛生委員会を設置していないことを
   「指摘・指導」してきているが

 これに対して府高は、以下の意見を述べた。
 労働安全衛生体制の問題は、最近になって問題になったのではなく、1970年代に労働安全衛生法が成立して以降、京都府人事委員会が「立入調査」などで府教委が安全衛生委員会を設置していないことを「指摘・指導」してきた経過と事実を踏まえる必要があること。
 府教委との労働安全衛生問題の協議は2年の経過があるけれどたった3回の協議でしかなく、京都府人事委員会の言う「府教委と話している」ということにはとうてい当てはまらない。

最低条件をクリアーすればいいということは
   府人事委員会としても言えないはず

 府教委は、京都府人事委員会が「衛生委員会設置を言っているので……」ということを理由にしているが、労働安全衛生法・労働基準法の精神から言っても最低条件だけをクリアーしたらいい、ということにはならないだろう。
 またそのような最低条件をクリアーすればいいということは、労働基準監督の立場にある京都府人事委員会としても言えないはずだ。
 問題は、府教委が衛生委員会設置で事足りると言う姿勢に終始していること。
 肝心の教職員の労働安全衛生をすすめないことにある。
 衛生委員会などは、あくまでもひとつの手段でしかすぎないはずだ。
 学校単位の衛生委員会問題についても、先ほどの「事業場調査」に見られるように教職員に知らせるべきものすら知らせない、労働組合の要求を聞かない、分会や組合員を排除するという前近代的な学校運営がされているところに問題がある。
 労働組合の意見も取り入れて教職員の労働安全衛生を協議するというより労働組合の存在を否定する管理職が多すぎる。
 だから学校で、ということには問題が多い。
 労働安全衛生体制は責任体制の明確化が一番の基本である。
 事業者である京都府や府教委の責任が明らかにされないことが問題。

府教委は すべての責任を校長としているが

 府教委は、事業者は校長ということで自らの責任を校長だけにしようとしている。
 学校長が、教職員のいのちと健康のすべての責任をとれるのか。
 府教委は、学校現場のことまで「めんどう見切れない」かのような姿勢であるから労働安全衛生協議がまとまらない。
 その一方で、3月末まで衛生管理者が置かれていなかった府立校で、4月になったとたん衛生管理者が置かれていると届けられる現実がある。
 事務部長の気持ちひとつで、衛生管理者として届けるか、届けないかが判断されているのが現実。
 しかも、衛生管理者をおいているという届けを京都府人事委員会に出したことすら教職員に知らせていない。
 ある学校では、

「衛生管理者として、教職員に職務命令を出すから、衛生委員になれ」

と衛生管理者が教職員の上に立ち労働安全衛生を職務命令で自分の都合のよいようにすすめようとする動きがある。
 衛生管理者の資格を取っても、その責任を果たすことすら分かっていない管理職がある。
 労働安全衛生をめぐって話し合いや協議をすることは、府教委に幾度となく言っているが応じていないのが府教委である。
 私たちは、労働安全衛生協議で一致できる点からすすめようと主張している。

衛生委員会を設置さえすれば
労働安全衛生問題はこれでいいととはならない
と府人事委員会は明言

 これに対して京都府人事委員会担当者は、衛生委員会を設置さえすれば、労働安全衛生問題はこれでいいということにはならない。
 衛生管理者の選任については、選任報告が出されたことに対しては、指導することはしていない。
 学校ごとにばらつきがあり、衛生管理者の資格を持っていても業務でないということで、選任届をしていない人もいることも承知している。府教委全体でも、整理されていないことは承知している。と述べました。

労働基準監督機関の区別をきちんとし 役割を果たすべき
 
 これに対して府高としては、京都府人事委員会の労働基準監督と労働基準監督機関の区別をきちんとし、府教委などに指導してもらいたい。
 T養護学校の給食調理員さんの職業病で研究・検討もしてきた。労働基準監督官が丹波養護学校の給食調理現場に立入調査をして「改善指導」が出されたのに、府教委は調理人さんがかえって手間のかかるような「改善?」がなされている等と述べた。
 京都府人事委員会は、労働基準監督の区分の問題は承知している。
 T養護学校の問題は京都府人事委員会として状況を理解しそれなりの対応をした。労働基準監督官の改善指導なども知っていると述べました。

定期健康診断が不定期健康診断になっている

4、教職員の健康診断について

 話し合いの終わりに府高から、府教委や管理職は定期健康診断が適正に行われていると京都府人事委員会に報告しているが、本年1月に府教委の実施する定期健康診断で医療ミスがあった。
 これは、適正な定期健康診断が行われているということになるのか、という問題を提起した。
 これに対して、京都府人事委員会担当者は、定期健康診断の医療ミスについては、知らなかった、と答えた。
 府高は、適切な定期健康診断が行われていないことを放置しているのは問題。

 府教委は、学校保健法に基づいて教職員の定期健康診断を実施していると言い、京都府人事委員会には労働安全衛生法に基づく定期健康診断の実施を報告している。
 それぞれ法の目的や健康診断の目的が違うのだからそのことをきちんと理解をしなければならないのに、それが出来ていない。
 しかも定期健康診断が定期になっていない。
 府教委は、「都合により」というだけで毎年、定期に健康診断が行われていない。
 労働安全衛生法上の医師による健康診断、健康診断後の事後措置、特殊健康診断である頸肩腕障害・腰痛健康診断の実効のある事後措置など、教職員には法に基づく健康診断が「常識的」に行われていない。など具体的事実をあげて述べました。

教職員の健康診断は
知事部局の健康診断と比べても問題があると府人事委員会

 これに対して京都府人事委員会担当者からは、学校保健法による教職員の健康診断は、(医師の件、事後措置の件、産業医の件など)知事部局の健康診断と比べても問題がある。
労働安全衛生法上の関係は府教委にも話をしている、との話があった。

  府人事委員会の話は事実の部分と「隠している」ことが、その後、さらに明らかになる。
 それは、府人事委員会が府人事委員会の労働基準法・労働安全衛生法・船員法の労働基準監督機関としての対応などの文章は、情報公開の対象になるもので、手続きをすればはだれでも入手できる性質のものである事を府高本部・府高労働安全衛生対策委員会が知ったからである。

2011年8月5日金曜日

強い放射線や中性子が出る〔臨界状態〕が夜中までつづくというわが国最大の原子力関係事故 安全対策の基本的な考え方としくみを変えさせなければ 事故や災害はとぎれることなく再発する


山城貞治(みなさんへの通信56)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その36)


 東海村JCO(ジェー・シー・オー)の「臨界事故」については、府高労働安全衛生対策委員会として日本での初めての「臨界事故」として重視し、労働安全衛生対策委員会ニュース「教職員のいのちと健康」1999年11月にも細川汀先生に投稿していただいていたので、再録させていただく。

わが国はじめての臨界事故の発生

 去る(注:1999年)9月30日、午前10時35分、茨城県東海村にある住友金属鉱山の子会社「ジェー・シー・オー」核燃料八酸化ウランの精製工場転換試験棟の沈殿槽に、制限値の7倍もの量のウランを投入したところ青い火が工場内を走った。全棟に非常を告げるベルが鳴りひびき従業員は戸外に飛び出した。
 わが国はじめての臨界事故が発生したのである。

事故発生から10時間半も経過して
       事故の重大性を知った政府

 ウランの核分裂が連続し、強い放射線や中性子が出る〔臨界状態〕が夜中までつづくという、わが国最大の原子力関係事故(国際評価尺度レベル4)になった。
 現場にいた3人は大量の被曝をうけて(最大20シーベルトの被曝と推定されている)倒れた。そのうち2人はいまも重症である。
 
 会社は救急車を呼んだが、事故の内容をかくし「てんかん」と通知したために、防護服を持たずに出動した救急隊員も被爆した。
 会社の製造部長は事故発生10分後に臨界事故であることを察知したが、数十分おくれて村や県に報告した。
 この間にも放射線や中性子は付近に拡散していた。
 政府が事の重大さに驚き対策本部を作ったのは午後9時、事故発生から10時間半も経過していた。
 政府が半径10キロメートル以内の住民32万人の屋内待避やJR運行の見合せを指示したのが午後10時半。
 遠くへの避難の態勢もなく、その時期もすでに失していた。
 避難時すでに多くの付近住民は許容量をこえた放射線や中性子線を浴びたことが証明されている。
 臨界は約17時間続き20時間で終息したが、この間どれだけの住民が被曝したか正確には把握されていない。

「臨界になることを想定していなかった」と
     作業者の「単純ミス」としたJCO

 事故を起こした「ジェー・シー・オー」は「臨界になることを想定していなかったので、臨界状態を未然に抑える装置の導入や、いざという時の対策は考えたことがない」と言い、原因は正常の手順を飛ばし、独自に作った手順さえ変更したやりかたにより、ステンレスのバケツを使って大量のウランを沈殿槽に入れてかきまぜた作業者の「単純ミス」のせいにした。
 また、官房長官も

「予想もしない事故で、アメリカやロシアに聞かないと対策は分からない」

と話した。
 科学技術庁も安全委員会も、かなり以前から行われていた手順の無断変更もバケツの使用もチェックしていなかった。

どれほど危険な仕事をしているかも会社は教えていなかった

 わが国には今日まで原子力防災法もない。
 作業者は作業主任の資格もなく、安全教育も行われていなかった。
 法規で定められた被曝測定用のフィルム・バッチもっけていなかった。
 おそらく自分がどれほど危険な仕事をしているかも会社は教えていなかったのであろう。
 現場の労働者は「臨界」のことばも知らなかったと言われる。
 
 深夜、沈殿槫の水抜きに従事させられた労働者も十分な防禦対策がなく、全員がかなりの被曝を受けた。
 この会社ではここ数年きびしいリストラで3年間に、1人当たりの生産量が年間10トンに倍増していたから、あまり知識や経験のない作業者がいたのだろう。
 東海村をはじめ多くの原子力施設の周辺では、いざというときの対策としての避難訓練やヨード剤の配布が必要とされているのに、住民の不安が高まるという理由で行われていなかった。

 労働者に危険を知らさないのは
                  原子力産業だけのことではない

 また、阪神大震災のとき欠陥を指摘されていた危機管理体制が少しも改善されていなかったことも、改めておどろかされた。

 コスト下げと納期の督促、人べらしのためこのようなズサンな作業が日常化していたと考えられる。
 しかも親会社は

「あれは子会社のやったこと」

と自分の責任をくりかえし否定した。
 政府は被曝者を189名と公表している(10月末日)が、おそらくその数値は増えるであろうし、また慢性的な影響やガン、白血病があらわれる危険性は多い。
 これらに対するフォローや補償の態勢も確立していない。
 「こんなことは夢にも思わなかった」
 「こんなことが起こることは知らなかった」
 労災職業病が起こるとき、会社や政府のせりふとして、今まで何回聞かされたことであろうか。
 これはただ原子力産業だけのことではない。
 多くの労働者が自分の仕事やまわりの危険についてほとんど教えられていない。
 会社もまた知らさない方がよいとしてかくしている。


変えさせなければ 
すべての企業の安全対策の基本的な考え方としくみを

 すべての企業の安全対策の基本的な考え方としくみを変えさせなければ、人々のいのちと健康は守られない。

 今回の原子力災害が改めて私たちに教えたことは、
 
第一に、企業(業界)や政府がずっと言いつづけたような「絶対に安全だ」「事故はありえない」という「神話」は成立しないことである。

 その主張は予防対策に金をかけたくないために行われている。
 そのために、生産現場では信じられないような危険な作業が平気で行われることになる。
 「危険職場」とされているところではとても起きないような。
 JCOは「臨界事故を防止する対策を講じており、臨界事故に対する考慮は要しない」という事業変更申請書を出し、科学技術庁や原子力委員会はこれをうのみしていた。
 「もんじゅ」や再処理工場のぱあいも、動燃が「絶対に起こらない」と説明していた火災や爆発が起きた。

危険な仕事をしているかをかくす体質が強い企業や政府

 第二に、企業や政府はそこで働く人たちや付近の住民にどのような危険な仕事をしているかをかくす体質が強いことである。

 「それを言うと働くものがいない」
 「住民がパニックにおちいる」

がかれらの言い分である。
 労働者や住民はそれを知る権利があるが、企業は「企業秘密」の名の下にそれを拒む。
 JCOは臨界反応を起こした沈殿槽の写真を10月1日に撮影していたのに4日間もかくしていた。
 「もんじゅ」事故でもナトリウムが漏れた配管をわざとかくしていた。

利潤や効率を第一に優先させて
  事故の原因や責任をあいまいに

 第三に、企業は労働者や住民の生命と健康を口にしながら、利潤や効率を第一に優先させていることである。

 最近、山陽新幹線をはじめ多くのJRトンネル内や橋げたのコンクリート塊の落下事故が発生している。
 99年6月、福岡トンネルでのコンクリート塊の落下は直接車輌を破損するものであったが、JRはトンネル表面での点検修理を行っただけで8月に
「今後10年間は絶対安全で心配いらない」
と宣言した。
 それから2ヵ月も経過していない10月9日、北九州トンネルで重さ226㎏の大きなコンクリート塊が線路に落下した。
 会社は先に出した「安全宣言」について
「あれは前回修理した所だけの話だ」
と弁解をしたが、実は7月に漏水やひびわれの異常を認めた場所であった。
 会見した記者に追及されて、社長は
「今後落下の可能性は否定できない。100%の安全はない」
と宣言を撤回した。
 あいつぐ落下の原因が、専門家によってコンクリート材料の海砂利用や効率優先の手抜き突貫工事にあることを指摘されているにもかかわらず、その抜本的改修をおそれて、あくまで事故の原因や責任をあいまいにしているのである。

事故や災害はとぎれることなく再発する
 会社・政府の原子力政策に
最大の社会的責任を明らかにしないかぎり

 今回の原子力災害は、会社が製造の期限と増加におわれ、効率と人べらしをすすめるあまり安全施設のない作業場で危険な作業をさせたところに原因がある。
 同時に、このことを認可ないし見逃していた科学技術庁と原子力委員会、そしてそれをバックアップした政府の原子力政策に最大の社会的責任がある。
 このことを明らかにしないかぎり、事故や災害はとぎれることなく再発するであろう。

絶対忘れてならない
鉱内に閉じこめられた労働者のいのちより
夕張炭鉱の保存を優先するための注水した社長を

 1963年から65年にかけて、三池・夕張炭鉱の大災害が続いたとき、それらが政府の石炭から石油へのエネルギー政策の下での安全経費の切り下げと人べらし、労働条件と労働者の権利の剥奪から起こっており、その原因と責任を明らかにしなければ災害が多発するであろうと私は警告した。
 そのとおりに次々と災害はおこり、82年に夕張新鉱でも80人をこえる死傷者が出た。
 このとき鉱内に閉じこめられた労働者のいのちよりも、炭鉱の保存を優先するための注水を社長が提案して家族だけでなく全国の怒りをかった。

恐ろしい「不可知論」とあきらめと無知

 今回の原子力災害やコンクリート塊落下は、わが国の原子力政策や新幹線政策の根源に触れるものである以上、労働者・住民のいのちと健廉を優先するという見方から根本的に見直す必要がある。
 そのことをうやむやにして若干の手直しだけで既定の路線を進めるなら、このような事故・災害が遠からずくりかえされるであろうことは明白である。

 「労働者のための労働衛生」を目標に40年間、努力してきた私にとって、くりかえしくりかえし言い続けたことは多い。
 にもかかわらず、わが国では依然として労働災害、職業病、産業公害、過労死(自殺)が多発している。
 これらの一つ一つの実態と原因・責任を現場で調査すれば必ずそれをなくする方策が見つかるはずである。

 こわいのは「不可知論」とあきらめと無知である。

 現場で調査することさえ困難で、この壁を打ち破るためにも労働者の協力が必要だった。
 働くもののいのちと健康を優先させることは今日の社会ではきわめて困難である。

 放射線障害 
生物に電離作用を起こして障害を起こすものに、アルファ線、べータ線、中性子線、ガンマ線などがある。
 一度に大量を被ばくすると吐気・脱力感・紅斑・白血球減少・発熱・下痢・脱毛などがおこる。
 慢性的には、皮ふの荒れやただれ、白血球の減少や貧血、目の障害、さまざまな部位のがんがおこることがある。
 ともに免疫が低下するので感染症にかかりやすい。

2011年8月2日火曜日

崩れた「原子力安全神話」 学校教育でも原子力についての危険性、とくに放射能、放射線について知識を


山城貞治(みなさんへの通信55)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その35)


いのちと健康を考えれば
 その費用は計り知れないほど少ないのに

 教職員や生徒のための安全対策には、費用がかかる。しかし、いのちと健康を考えればその費用は計り知れないほど少ない。
 行政は、いつもいのちが失われて社会問題化すると安全対策を講じる。
 しかし、府立学校のアスベスト問題に見られるように府教委は、安全問題が社会問題化しないようにと必死で、安全対策への改善を指摘する人々への「いやがらせ」「報復」「見せしめ」などが現れたが、「アスベスト撤去」の断固たる姿勢に一応認め、内々に京都府とともに大量のアスベストが使用されていた府立学校の校舎の建て替え行っている。
 このことは、1986(昭和61)年6月京都府議会で誠実に事態を受けとめ、安全対策を行っていれば、京都府や府教委の言う「お金をかけなくてすむ」ことが出来たはずである。
 一時的にごまかし、問題の本質を解決しない行政は、あとあと膨大な出費が必要となることを教訓化しようとはしない。
  また、学校は中小大規模の安全対策でも独自に対策は打てず、京都府・府教委がすべての権限を持っている事が明らかになった。

校長は事業者になり得ない 

HOSOKAWA ADVICE  細川汀氏は、京都府高機関紙労働安全衛生対策委員会ニュース「教職員のいのちと健康」を読み、1998年5月に、

 責任体制の明確化が難しい日本の行政機構の研究が必要なようですね。
 (労働安全衛生法の)「事業所」については、そこの責任者が「金を出す権限がないから出来ない」という人であってはならない、というのが原則ですから、校長ではないでしょう。
 その上で、「校長の責任」を別に規定しなければならないでしょう。(予防・増悪~再発防止・手当・救急の責任についての)
 ねばり強く討議することを惜しまないようにして下さい。

生徒・教職員・学校の安全対策のほとんどは行政にある

 アスベスト問題では、まさにこのことが如実に現れた。
 都道府県立学校では、一定の範囲の予算が各学校に配分されるが、その執行権限は校長になく、事務の出納責任者(京都府立高校では事務部長)であるが、中小大規模の費用になると京都府にその権限がある。
 市町村立の義務教育学校では、予算執行権限は学校にはまったくなく市町村の行政にある。
 これらの事を充分知らないと労働安全衛生上も安全対策上も充分な手立てが打てない。

 2000年になると府高労働安全衛生の取り組みも反映して京都府・府教委は学校の安全対策を無視できないようになり、次のような報告が寄せられてきた。

化学実験における安全対策の一定の改善から広がる確信

K高校にも下方換気扇実現         K高校分会

 K高校化学実験室には上方換気扇は南側、北側、2箇所ずつ4つの換気扇が設置されていますが、下方換気扇がありませんでした。
 化学実験においてはやむなく有害(毒)な気体も発生し、その場で働く教職員の健康はもとより、生徒の健康を守るためにも是非下方換気扇が必要と、1997年度より分会で要求していました。
 管理職は、当初から必要性は認めるが予算的な措置がとれないということでした。しかし、1999年2学期末、2箇所(理想は4箇所)設置が実現しました。
 このことは、分会での要求と同時に、府高の「教職員の労働安全衛生を要求する取り組み」があったればこそと痛感しています。
 高校の化学実験では扱う量は少ないのですが、有害(毒)な薬品を多数扱い、接しています。今後、このことも課題となります。 

府立学校において「放射能被爆の可能性の問題」が

  しかし、府立学校において「放射能被爆の可能性の問題」がこの段階では分かっていなかった。
 だが、「教職員のいのちと健康」2000年1月大阪労働者安全センター北口修造に特別寄稿を寄せていただいていた。以下その全文を再転載する。

JOC「臨界事故」を二度と引き起こさないためにも
学校に安全対策と安全教育を 
  -東海村・JOC-「臨界事故」現地調査を終えて ー


 19999年12月6日(月)東海村「臨界事故」現地調査に行きました。
 調査の前日、レクチャーを受けました。率直に言って今回の事故を通じ、初めて原子力に関する法制度を知るにいたりました。
 その一例として、
(1)原子力基本法(21条)、
(2)核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(83条)、
(3)放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(59条)です。

22年もおくれた原子力安全「チエック機能」

 
原子力基本法の施行日と同時に、日本原子力委員会が発足されたのは1956年1月1日、同年6月に日本原子力研究所が発足。
 建前上、審査、チェック機能をもっ原子力安全委員会は1978年10月で、22年後になってからの発足です。

 規制に関する法律条項では、核燃料取扱主任者の選任く30日以内内閣総理大臣に届け出/罰則)と核物質防護管理者の選任を定めています。
 取扱主任者の核燃料物質の取扱いに関して保安の監督を任務とし、科学技術庁官の行なう核燃料取扱主任者試験に合格し、免状を交付された者から選任することになっています。
 防護管理者の資格要件は特定核燃料物質の防護に関する業務を統一的に管理することを任務とし、特定核燃料物質の取扱等 の知識等について総理府令の定める要件を備える者のうちから選任することになっています。
 これらの選任は、核燃料の「製錬」「加工」「再処理」の事業者に義務づけられています。
 JCO事業所では、これらの選任はどうであったかについては明白されていませんし、主任者の責任コメントは未だ報道はされていません。
 さらに関連法規として、被害者の損害賠償に関して、
(1)原子力損害の賠償に関する法律(26条/1961年)、
(2)原子力損害賠償補償契約に関する法律があります。
 事業者に保険契約を義務づけ、補償・賠償の限度を上回る事態が生じた時は政府が補償することになっています。保険契約金は2000年度から600億円(現行300億円)に引き上げられるそうです。

 原子力「安全神話」・想定外と 東海村 JOC「臨界事故」
 事故原因は リストラ・ 安全教育の皆無など


 今回の臨界事故について市川先生(明治大学講師.元日本原子力研究所研究員)が指摘されましたが、政府関係機関が「臨界」を想定していなかったことにあり、「安全神話論」のもとで、作業に従事する者にたいしてなんら核燃料の知識はもとより、安全教育が施されていなかったことが言えるでしょう。
 
市川先生は、今回の事故の背景を

①JOC社内のリストラの影響
②20%濃縮ウランを処理するための施設の設置に関わる安全審査において、具体的な審査基準がなく一般的指針により審査がなされた。
③誤動作があっても臨界事故が起こらないようにするとの指針に反して設置変更が許可されていた。
④臨界事故警報装置や中性子測定モニターなど臨界事故発生時の対応設備がないまま操業が許可されている。
⑤原子力は安全だという根拠のない思いこみ(安全神話)など
多くの問題と改善を指摘されていました。

原子力作業は 無資格で行えるなんて……

 
現地で原研労組の方々とも交流しましたが、「作業者の資格は何もない」(花島委員長)と指摘され、資格免許制度の必要性を提起されていました。

原子力「安全神話」と「臨界事故」問題に
    対応できない労働安全衛生法


 橋本さん(全労働本部副委員長)のレクチャーは小生と同様の見解でした。
 労働安全衛生法を今回の臨界事故に当てはめようとする条項は、安全衛生管理体制に係わる条項しかありません。
 電離放射線障害防止規則(規則は大臣が定める)の規定は、①医薬部門②工業的部門③農業部門④研究開発等を対象にされており、小生も核燃料物質の製造事業には当てはまらないと思っていたことが、ズバリそのものでした。
 東海村・JCOは、国道6号線沿いにあり、少し離れて親会社の住友金属鉱山があります。
 敷地は5千坪(推定)、正面左 側にサッカーグランドがあり、建物も新しく屋内も整備されていました。
 守衛室の係員も丁寧に頭を下げられ、応対された3名の担当者も神妙で、事故対策チームリーダーも要請にあたって冒頭から謝罪され、私たちの要請文の範囲のみ回答され、質問事項①事故に際しての指揮命令系統②安全衛生管理体制の確立③フイルムバッチの着用④防災・消防計画と訓練等の有無について、後日各担当者から回答することを確約しました。
 現在、親会社から職員も配置し延べ200人、常時50名が原因究明、補償等について従事しているとのことでした。
 この後、東海村役場を訪問し、企画政策部長、課長の事故当時の対策の説明を受け茨城県庁、科学技術庁との相違(臨界に対する認識、退避)があったことを知ることができました。
 東海村村長は独自に判断して半径350m内の住民に退避勧告要請を行なったことが、地元では「英断」として評価されています。

学校教育で原子力の危険
 とくに放射能、放射線の基礎的学習を

 
余談ですが、東海村は人口約3万4千人、日本原子力研究所をはじめ、核燃料物質に係わる原発施設が13箇所、そのうち製造事業所が3箇所もあります。
 村役場は豪華な建物で、職員700名(病院1箇所含む)、原子力対策課(3F)も設置されています。村財政も豊富で、隣接町村との合併にも反対しており、小生の感触では、東京電カからの資金提供を受け、政府からもかなりの補助金が出でいることのではないかと思います。
 最後に、小生も過去に原発問題に関して一時関心を寄せましたが、臨界事故を通じて日本の法制度や核燃料物質に傾注しはじめただけに、学校教育でも原子力についての危険性、とくに放射能、放射線について知識の必要性を感じました。( 1999.12.8  )

2011年8月1日月曜日

安全は絶対譲れない アスベストを学校から撤去と全員の健康診断を と強く要求


山城貞治(みなさんへの通信54)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その34)


いのちと健康よりも費用優先にストップ

  「アスベスト除去は、費用がかかる。従来の塗り込め方式でいい」などという府教委は、子どもの健康と・安全に関する事はまったく無関心であると思われた。

 特に「塗り込め方式では、ダメだ。」という主張に対して、誰がそんなことを言っているのかとか、府教委に逆らうのかという話が陰に陽に広められた。
 A高校の面積は少ないのに何も「除去」をいわなくてもいいではないか。
大変な工事だからすぐに授業が出来る塗り込め方式でいいではないか、という声も校内で出てきた。
 しかし、アスベストの危険性を知る中で、次第にただ単なる有害物質ではない、何十年も先に「爆発する」と言われている「静かなる時限爆弾」である事がA高校では広がりはじめた。

WHOの安全基準を持ち出した
     府教委の根拠を翻訳して打ち砕く

 当初府教委は、「除去」を言うのはA高校だけだと言っていたが、次第に各府立学校で「アスベスト除去」の声が広がりはじめた。
 府高本部も府立学校総括安全委員会でも「アスベスト除去」の話が出されたが、府教委は空気中にアスベストは自然に浮遊している。
 容量がすくなければ問題がない。アスベストの繊維が大きいから大丈夫だ。
 「WHOの基準に照らしても安全である。」
などと言い出した。
 そのため府高労働安全衛生委員会ではWHOのアスベストに関する本文を調べ、翻訳して府教委の「WHOの安全基準」なる根拠がデタラメであることを証明していった。
 またアスベストは、細分化されるほど体内に入り発がんすることなどなども示した。
 ともかく、府教委は「アスベスト除去」をするとそれまでの対処や答弁が問題になるので、「アスベスト除去」を主張する教職員を押さえ込もうとすることばかり考えていたようである。
 A高校衛生委員にもさまざまな「見えない圧力」があったが、また分会は、府会議員に現場を見に来て欲しいと再三要望したが、誰一人来ることもなかった。
 しかし、PCB問題以上に絶対譲れないものとして妥協することはなかった。
府教委は一貫して 生徒、教職員、保護者に危険を知らせ 安全対策をとらなかった
 結局、校長から「アスベスト除去」の工事が始まるという事で話があり、全教職員と保護者への謝罪と工事への協力の文章を出した。
 しかし、府立学校の設置者である京都府、管理運営を任されている府教委は何らの見解を出さなかったが、A高校のアスベスト除去以降、他校では校舎の全面改築、各棟の立て替えなどを行ったようであったが、それはアスベスト除去によるものとは教職員には言わなかった。
 しかし、今日では、アスベスト除去した会社のホームページには、私たち教職員が知り得なかった府立学校「アスベスト除去」の工事実績が掲載されている。
 当事者に知らさない、と言うのが府教委のアスベスト問題の基本であった。

 A高校では、労働基準監督官などの立ち会い(「アスベスト除去」作業の労働者に対する労働安全衛生法違反がないかどうかを監督するため)の元に工事が進められ、「除去された教室」はしばらく調べて、安全が確認された後、嫌な思いが残らないように教室は一新された。































「塗り込め方式」のアスベストが剥落しても

 その後、府教委はアスベストによる特殊健康診断や卒業生や在校した教職員に対する追跡調査とアスベストによる特殊健康診断を要求したが、何らの措置もしていない。
 また、第1回目で発表した府立学校は、アスベストを除去することなく、「塗り込め方式」のままであったため、その塗り込めた部分が剥落するという事故も起きていた事を知ったのはずいぶん後だった。

アスベストが除去されるまでその学校に居た教職員生徒の
    健康診断が実施された市町村もあるのに

 先に掲載した宇治市市職労委員長のアスベスト除去の取り組みで、教職員や生徒が放置さていたことが市議会で問題になり、以下の文章が各方面に通知された。

 M小学校では、アスベストが階段の天井等に吹き付けられており、1988年に除去されるまでの間に在籍した人は、京都府と宇治市の負担での健診が受けられます。
1.対象者
 1969~88(昭和43~63)年度にM小学校に在籍した児童・教職員。
2.内容
 問診と胸部レントゲン検査
3.申込先
 宇治市教育委員会教育総務課
4.申込期間
 2006年2月28日まで
5.費用
 京都府内在住者は、京都府の制度を利用するので無料。
 府外在住者は、市が一部負担。


 これと同じ措置が京都府下の市町村でも行われることはあったが、府立学校なのに京都府も府教委も何もしないまま今日まで来ている。
 府立学校のアスベストは、分かる範囲で「少し除去」されたが問題は残されつづけている。