2011年8月13日土曜日

1997年に出された京教組養護教員部の養護教諭のための労働安全衛生Q&A


  山城貞治( みなさんへの通信 61)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その41)


「1997年に出された京教組養護教員部の
養護教諭のための労働安全衛生Q&A」
「教職員のいのちと健康」(1998年2月)より転載。

 最近府下各地教委などが管理職を衛生管理者(衛生推進者)にしたり、養護教諭や体育教諭を衛生管理者(衛生推進者)にする動きがあります。
 また第2回府高分会労働安全衛生担当者会議でも養護教諭が衛生管理者になることについての意見も出されています。
 そのため京教組養護教員部の了解のもとに京教組養護教員部が1997年12月に出した「Q&A」を2回にわたって転載します。
ぜひ、この問題を学習して下さい。なおこの「Q&A」へのご意見は、京教組養護教員部までお寄せ下さい。

養護教諭のための労働安全衛生Q&A
 京都教職員組合養護教員部発行(その1)  

1.Q&Aをより理解するために 

① 労働安全衛生とは労働者が労働することにより、けがや病気になったり生命を亡くすようなことがないようにするするためのすべてのこと(予防)をいいます。
 そのため労働者が仕事をすることによりけがや病気や死ぬことがあったりすれば、それはすべて働かせている側や労働の場を提供している側(労働基準法では使用者・労働安全衛生法では事業者)にすべての責任があるということです。
 したがって、働かせている側は労働者が労働することによって、病気やけがや死ぬことがないよう、あらゆる手だてを行わなければならないのです。
 ところが労働衛生と労働安全衛生法ということばがよくにていることばであるため、労働衛生=労働安全衛生法と誤解され理解されていることがよくあります。
 しかし、これはまったく大きな誤りです。
 くわしくは「教職員のための労働安全衛生入門」を読めばよくわかっていただけると思います。

② 養護教諭が安全衛生管理者もしくは、安全衛生推進者になる問題については、労働安全衛生法上及びその規則の一部に基づくものですが、少なくとも労働安全衛生法の問題について以下の点だけは十分理解し考えておく必要があります。

 労働安全衛生法の問題点については、「君は元気に働いているか-職場安全衛生活動の手引き-」(日本機関紙出版センタ-・以下「君は元気に働いているか」)には次のように書かれています。
 安全衛生管理の責任は、事業者にあることは法律で規定されています。
 すなわち、労働安全衛生法(労衛法)は事業者が労働者の安全と健康を守る義務として法律(最低基準)を守ることと、労働条件の向上と快適な職場環境の形成を明示しています。
 しかし、1972年、労働基準法(労基法)の見直しの一つとして作られた労働安全衛生法は、「労基法と相まって」とは書いてありますが、労働者のいのちと健康を守る権利を保障していません。
 労働者が職場の危険を知る権利、調べる権利、拒否する権利、逃げる権利、学習する権利、専門家の意見を聞く権利、監督官に抜きうち立ち入り調査させる権利などを保障していません。
 また、労働者の生存権や労使対等の参加なども保障されていないため、安全衛生の手抜きのまま新しい工法や技術や機械が一方的に導入されています。労働組合や現場の労働者のチェックが無視されています。
  以上の問題点などは、労働安全衛生にたずさわる専門家の常識的な理解であって労働安全衛生法だけでは教職員のいのちと健康は守れません。
 たとえば過労死の問題を考えてみても長時間労働による死亡などは労働基準法とも関連するなど、労働安全衛生法上だけで解決できないことは明らかでしょう。
 私たちが労働安全衛生法に依処しても、支配するもの(国、行政、検察、警察などの権力)が自分たちの都合のよい法律だけを楯(たて)にとって、進めてくることは今までの民間・自治体労働者の労働安全衛生闘争の経験からもわかっていることです。

 ではどうすればよいのでしょうか。
 それは私たちが組合として、教職員のいのちと健康を守る要求を統一し団結して闘ってこそ、いのちと健康が守れるのです。
 戦前の産休の闘いからも、そのことは明らかです。

③ 労働基準法、労働安全衛生法はほとんどの企業が違反をしており、それを監督指導する労働基準局は事実上の黙認を行っているのは広く知らされているところです。
 法違反の罰則等がありますが、それが適応されるのは死亡事故や大災害があって、社会問題になって起訴され裁判で判決がくだされる時のみ適応されるという、いわゆる「ザル法」になっています。
 だからといって、私たちがその違法を見逃してはならないのは言うまでもないでしょう。
 私たち教職員の場合は、地方公務員法で労働基準法と労働安全衛生法の違法を摘発し指導するのは、府立学校においては寄宿舎を除いては京都府人事委員会、京都市立校などは主に京都市人事委員会、各市町村立小中学校においては、各市町村が労働基準監督所と同じ役割を果たすとなっています。
 しかし京都府人事委員会などは、20数年前から教育委員会や学校現場が休憩休息、時間外勤務、健康診断等、死亡報告、安全対策、労働安全衛生体制などなどの労働基準法や労働安全衛生法に数多く違反していると指導(自分がした違法行為を自分で徹底した監督指導をするはずがないのです。)していますが、直接関係する教職員にはすべて知らせず(行政間のなれあい)ごまかされていることは知っておくべきでしょう。

2.養護教諭のためのQ&A

Q1.「衛生管理者になってくれないか」と校長に言われたらどう答えるの?
 養護教員部がいつも明らかにしていた「誰のための、何のための」ということをまず頭におきましょう。
 そして、「衛生管理者は、誰のための衛生管理者か。
 どんなことをするのですか」と聞き、メモをとっておきましょう。
 このことは後になって問題が起こったときなど仕事の内容にかかわる重要な証拠になります。
  衛生管理者や、衛生推進者には仕事がありますがその仕事はその時々の行政の解釈の仕方でどうにでも理解されるところがあります。
 そのため、衛生管理者、衛生推進者の仕事を受ける場合は、まず管理職等に言われたことを養護教諭の仲間と交流し、相談することが大切です。
 断ることは自由です。
 職務命令で衛生管理者、衛生推進者を命ずることはできません。
 それは学校教育法28条「児童生徒の養護を司る」のが養護教諭の仕事であることが法律上明記されているからです。
 したがって、教職員の労働と安全にたずさわる責任は、全くありません。
 その責任は、事業者にあるのです。
 しかし、いったん引き受けるとなしくずし的に仕事を私たちに押しつけ「職務命令」の対象にさせられる危険性はあります。引き受ける場合は必ず、養護教諭を増員してもらうことです。
 これは当然組合本部として要求する事項でしょう。
 なぜなら本来の仕事でないことをさせられるのですから、本来の仕事をする人を加配するのは当然のことです。
 また自分ができないことまで引き受ける事のないようにしましょう。引き受けて、管理職があれやこれやと仕事を増やしてきたら養護教員部まで連絡してください。
 この問題について専門的にやっておられる研究者が多くおられますので協力していただき、専門的にアドバイスがいただけますし、教職員組合も不当なことについては闘いを強めてくれます。
  ただ注意してほしいのは、衛生管理職、衛生推進者というのは事業者責任で行われる労働安全衛生をすすめるためのスタッフであり事業者側ではありません。
 そのためすべての責任は事業者にあるので、自分の責任と思わないようにしましょう。
  衛生管理者、衛生推進者になった場合は府と市は人事委員会に、小中は各市町村にそれぞれ届けることが義務づけられています。

Q2.養護教諭は衛生管理者になれるんですか。又衛生推進者とどう違うの?
  労働安全衛生上はなぜか「学校に限ってのみ養護教諭と保健体育教諭は衛生管理者になれる」と定めています。(養護教諭などで衛生管理者の免許を持っている人以外は、他産業では衛生管理者として通用しません。)
 この背景には、教職員を他の労働者と違うのだという意識的政策をつくることによって、教育を支配していくため、 また生徒たちに労働者意識をうえつけないための意図があったのではないかという研究者の指摘がありますが、ともかく法律上なれることになっています。
  労働安全衛生法上では衛生管理者は免許がいり、衛生推進者は免許がいらないとなっていますが、すでに述べたように学校に限ってはきわめてあいまいな状況になっています。
 ある管理職が言うところによると「一夜づけで衛生管理者の試験に合格した。○×だから簡単や。労働衛生なんか忘れてしもたわ」と言っています。
 衛生管理者の試験は国家試験で難しいと思われるむきがありますが、必ずしもそうではないようです。
 問題なのは衛生管理者、衛生推進者として十分活動できるよう時間やお金や学習する機会が保障されるのかどうかということです。
 また衛生管理者、衛生推進者の意見が十分反映できる状況がつくられているのかどうかということです。
 「君は元気に働いているか」(同上)には、衛生管理者と衛生推進者について以下のように書かれています。

衛生管理者
1,衛生管理者はどんな業種でも50人以上の労働者がいる事業場に専任者がいなければならない。
2,衛生管理者は都道府県労働基準局長の免許が必要であること。(注*学校は例外とされている。)
3,衛生管理者の職務は、少なくとも毎週1回作業場を巡視し、設備・作業場・休憩室・食堂・便所等や作業方法を点検し、衛生上や労働者の健康障害になる問題点があれば、直ちに必要な措置を講じなければならないこと。

4,衛生に関する技術的事項としては、
イ、健康に異常のある者の発見及び処置。
ロ、作業環境の衛生上の調査。
ハ、作業条件、施設等の衛生上の改善。
ニ、労働衛生保護具、救急用具の点検及び整備。
ホ、衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項。
へ、労働者の負傷および疾病、それによる死亡、欠勤および移動に関する統計の作成。
ト、その他衛生日誌の記録等職務上の記録の整備等。
5,月一回の安全衛生委員会で衛生管理者としての活動を報告する。


衛生推進者
1,10人以上50人未満の事業場で選任しなければならない。

2,衛生推進者等の職務は、
イ、施設、設備等(安全装置、労働衛生関係設備、保護具を含む)の点検および使用状況の監視、ならびにこれらに基づく必要な措置に関すること。
ロ、作業環境の点検(作業環境測定を含む)および作業方法の点検並びにこれらに基づく必要な措置に関すること。
ハ、健康診断および健康保持増進のための措置に関すること。
ニ、安全衛生教育に関すること。
ホ、異常な事態における応急措置に関すること。
ヘ、労働災害の原因の調査および再発防止対策に関すること。
ト、安全衛生情報の収集および労働災害、疾病・休業等の統計の作成に関すること。
チ、関係行政機関に対する安全衛生に係わる各種報告、届け出等に関すること。
 以上の仕事をするためにも行政・教育委員会は充分な人的裏付け、財政的裏付け、時間的裏付けを保障しなければならないのは、言うまでもないでしょう。


 養護教諭のための労働安全衛生Q&A
  京都教職員組合養護教員部発行(その2)

Q3.衛生管理者になっても「今までしてきてくれた仕事と変わりない」と言われましたが本当ですか?
  今まで通りと思われる場合もあるとおもいますが、事故等が起きた時には責任が問われることがあります。
 また、最初だけ今まで通りで、後になって事業者や管理職のする仕事まで押し付けられることも考えられます。
 その場合は、養護教員部と養護教諭みんなと相談し、改善を求めましょう。
 いまこそすべての養護教諭に京教組養護教員部に入ってもらい、いっしょに「いのちと健康を守る」取り組みを展開しましょう。

Q4.京都市教委は教頭を衛生管理者(推進者)にしていますが、養護教諭がなるのとどうちがうの?
  京都市教委は、教職員のいのちと健康を守るのではなく教職員支配のために衛生委員会及び衛生推進者を利用しようとしていることは明らかです。
  企業では安全衛生体制は、しばしば労働者の首きり、リストラ、事故かくし、労使協調に利用されています。
 そのことを知ったうえで、京都市・京都市教委は管理職を衛生管理者、衛生推進者にしようとしているのです。
 産業医も京都市教委の意図する医師を選んでくることが考えられます。
 このことも大きな問題があります。
 先進国ではその場合、労働者が拒否する権利を設けている国もあります。
  他府県では管理職が衛生管理者になったら教職員の健康がすべて知られて、いじめや嫌がらせを受けているところもあるそうです。
 以上のことから養護教諭がなって教職員の立場に立った衛生と安全を考えるのと、行政や教育委員会の立場に立って衛生と安全を考えるのと決定的な違いがあります。
 教職員の健康と安全に力をかしたいと思う場合は、労働組合が推薦する安全衛生委員になるのもひとつの方法です。

 Q5.仕事が増えて今までの養護教諭の仕事ができなくなる心配があるけどどうすればいいの?
  人も増やさず衛生管理者、衛生推進者の仕事をさせるのは断りましょう。


Q6.養護教諭が衛生管理者になったら職場の人達にどう広めていったらいいの? 
 教職員の労働安全衛生の取り組みの経験は蓄積されていません。
 そのため、職場の教職員のいのちと健康を守る要求を実現する取り組みを、すすめていけばいいのです。
 そして、学校として改善しなければならない点は、管理職に堂々と衛生管理者、衛生推進者の立場から主張すればいいのです。
 それが通らなければ当然労働組合の交渉と闘いをすすめるようにしましょう。
 これは憲法に保障された当然の権利です。

Q7.産業医とか健康管理医とかどういう役割なの?
   「君は元気に働いているか」(同上)には、産業医について以下のように書かれています。
 産業医は、労働衛生の専門的知識から職場を巡視するとともに、健康相談や健康診断を通じて労働者の健康状態を把握したうえで、事業者、総括安全衛生管理者、安全衛生委員会に職場改善を助言、勧告する役割を果たさなければなりません。
(1)産業医が専属で必要なところ
どの職場でも産業医が決められていなければなりません。(だだし50人以上)が、とくに次の職場では専属の産業医が必要です。(則第13条2)
① 常時1000人以上の労働者がいる職場(3000人以上は複数)
② 常時500人以上の労働者がいる職場で有害業務を行っている事業場

(2)産業医の職務(則第14条、第15条)
① 健康診断やその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
② 作業環境の維持管理に関すること
③ 作業管理に関すること
④ 健康教育・健康相談・健康障害の原因調査と再発防止に関する措置や勧告
⑤ 衛生教育に関すること
⑥ 少なくとも月一回作業などを巡視し、健康障害の防止の措置を講ずること。
⑦ 安全衛生委員会に出席し、活動を報告し、意見を述べる。
⑧ これらについて事業者または総括安全衛生管理者に対し勧告し、衛生管理者を指導し助言する。

(3)産業医の選任が名目だけになっている職場が多い。

 産業医は、現場や労働衛生についての関心や知識、責任感、行動力が必要で、同時に労働者との交流が必要です。
 労働者は自分の職場の産業医が誰なのか、その産業医はその職務をやっているのかを点検し、やりにくい障害があれば対策を考える必要があります。50人未満の事業所でも産業医は必要です。
また、「健康管理医」という名前で職務を縮小しているところがありますが、これは法に反しています。

(4)学校では校医が産業医の職務を行えば産業医を別に定めなくてもよいことになっています。(則13条2項)しかし、校医のほかに産業医を選ぶことも自由です。
(注)労働省も30人以上の職場におくなど産業医制度の見直しの作業を始めています。また、医師会などで講習会が行われていますが、たえず労働衛生の進歩についての学習が必要です。

  Q8.安全委員会とか衛生委員会とかいってるけど、どういう役割なの?
  労働安全衛生法上で安全委員会、 衛生委員会及び安全衛生委員会は定められていますが、教職員の労働から考えて安全と衛生は切り離せません。
 公務員の中で特に教職員の災害が多いのはどうしてでしょう。
 警察よりもはるかに多く災害を受けているのは、教育という仕事と重大なかかわりがあることは明らかです。そのことから安全対策抜きにできません。
 また、安全と衛生は表裏の関係で、今日の教職員の病気や災害、死亡などを考えてみても、どこからどこまでが安全か、衛生かの区別などできないでしょう。
 したがって労働安全衛生法の安全委員会と衛生委員会と合わせた安全衛生委員会が必要になりますが、この安全衛生委員会ができれば労働安全衛生が進んだということではけっしてありません。
 形を作っても中味がなければ何もなりません。
 安全衛生委員は事業者と労働者の意見が一致しなければ決定することもできませんし、決定したことが法的拘束力もありません。
 だから安全衛生委員会ができたからといって、労働衛生がすすむわけではないのです。
 他府県では組合員を排除した衛生委員会がつくられ、教育委員会の言いなりの「心の持ちようによる健康」が進められています。
 しかし教職員組合が闘いを背景に、安全衛生委員会に参加すれば一定の要求も実現するし、調査や立ち入り等も可能になります。
 このことをしておかないと、安全衛生委員会を通じて組合が労使協調路線に走ってしまいかねません。
 労働安全衛生法成立後、多くの労働組合が衛生委員会や安全衛生委員会ができたことによって安全と健康の問題をすべて安全衛生委員会などにゆだね、生命と健康を守る闘いが弱まったと言われています。
 私たちはその歴史的教訓をふまえ、新しい真に教職員のいのちと健康を守る運動をしていく必要があります。
  京都府人事委員会は「衛生委員会、安全衛生委員会は調査審議機関である」という解釈をしています。
 これは行政の通例解釈です。

 したがって安全衛生委員会を労働衛生をすすめていく中心的機関とは考えていません。
 実態は、健康診断日程を決めたり、調査するに過ぎません。
 安全衛生委員会をつくった自治労連の多くの組合は、安全衛生委員会では多くの限界があり交渉や闘いを背景にしたほうが問題の解決が早いとも言われています。
 労働安全衛生法には安全衛生委員会の設置は義務ずけられていても、その運営決定は一切法的には義務付けられていません。

 なお、衛生管理者、衛生推進者は、安全衛生委員会のもとには置かれません。あくまでもスタッフであることを注意しておきましょう。