2011年8月5日金曜日

強い放射線や中性子が出る〔臨界状態〕が夜中までつづくというわが国最大の原子力関係事故 安全対策の基本的な考え方としくみを変えさせなければ 事故や災害はとぎれることなく再発する


山城貞治(みなさんへの通信56)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その36)


 東海村JCO(ジェー・シー・オー)の「臨界事故」については、府高労働安全衛生対策委員会として日本での初めての「臨界事故」として重視し、労働安全衛生対策委員会ニュース「教職員のいのちと健康」1999年11月にも細川汀先生に投稿していただいていたので、再録させていただく。

わが国はじめての臨界事故の発生

 去る(注:1999年)9月30日、午前10時35分、茨城県東海村にある住友金属鉱山の子会社「ジェー・シー・オー」核燃料八酸化ウランの精製工場転換試験棟の沈殿槽に、制限値の7倍もの量のウランを投入したところ青い火が工場内を走った。全棟に非常を告げるベルが鳴りひびき従業員は戸外に飛び出した。
 わが国はじめての臨界事故が発生したのである。

事故発生から10時間半も経過して
       事故の重大性を知った政府

 ウランの核分裂が連続し、強い放射線や中性子が出る〔臨界状態〕が夜中までつづくという、わが国最大の原子力関係事故(国際評価尺度レベル4)になった。
 現場にいた3人は大量の被曝をうけて(最大20シーベルトの被曝と推定されている)倒れた。そのうち2人はいまも重症である。
 
 会社は救急車を呼んだが、事故の内容をかくし「てんかん」と通知したために、防護服を持たずに出動した救急隊員も被爆した。
 会社の製造部長は事故発生10分後に臨界事故であることを察知したが、数十分おくれて村や県に報告した。
 この間にも放射線や中性子は付近に拡散していた。
 政府が事の重大さに驚き対策本部を作ったのは午後9時、事故発生から10時間半も経過していた。
 政府が半径10キロメートル以内の住民32万人の屋内待避やJR運行の見合せを指示したのが午後10時半。
 遠くへの避難の態勢もなく、その時期もすでに失していた。
 避難時すでに多くの付近住民は許容量をこえた放射線や中性子線を浴びたことが証明されている。
 臨界は約17時間続き20時間で終息したが、この間どれだけの住民が被曝したか正確には把握されていない。

「臨界になることを想定していなかった」と
     作業者の「単純ミス」としたJCO

 事故を起こした「ジェー・シー・オー」は「臨界になることを想定していなかったので、臨界状態を未然に抑える装置の導入や、いざという時の対策は考えたことがない」と言い、原因は正常の手順を飛ばし、独自に作った手順さえ変更したやりかたにより、ステンレスのバケツを使って大量のウランを沈殿槽に入れてかきまぜた作業者の「単純ミス」のせいにした。
 また、官房長官も

「予想もしない事故で、アメリカやロシアに聞かないと対策は分からない」

と話した。
 科学技術庁も安全委員会も、かなり以前から行われていた手順の無断変更もバケツの使用もチェックしていなかった。

どれほど危険な仕事をしているかも会社は教えていなかった

 わが国には今日まで原子力防災法もない。
 作業者は作業主任の資格もなく、安全教育も行われていなかった。
 法規で定められた被曝測定用のフィルム・バッチもっけていなかった。
 おそらく自分がどれほど危険な仕事をしているかも会社は教えていなかったのであろう。
 現場の労働者は「臨界」のことばも知らなかったと言われる。
 
 深夜、沈殿槫の水抜きに従事させられた労働者も十分な防禦対策がなく、全員がかなりの被曝を受けた。
 この会社ではここ数年きびしいリストラで3年間に、1人当たりの生産量が年間10トンに倍増していたから、あまり知識や経験のない作業者がいたのだろう。
 東海村をはじめ多くの原子力施設の周辺では、いざというときの対策としての避難訓練やヨード剤の配布が必要とされているのに、住民の不安が高まるという理由で行われていなかった。

 労働者に危険を知らさないのは
                  原子力産業だけのことではない

 また、阪神大震災のとき欠陥を指摘されていた危機管理体制が少しも改善されていなかったことも、改めておどろかされた。

 コスト下げと納期の督促、人べらしのためこのようなズサンな作業が日常化していたと考えられる。
 しかも親会社は

「あれは子会社のやったこと」

と自分の責任をくりかえし否定した。
 政府は被曝者を189名と公表している(10月末日)が、おそらくその数値は増えるであろうし、また慢性的な影響やガン、白血病があらわれる危険性は多い。
 これらに対するフォローや補償の態勢も確立していない。
 「こんなことは夢にも思わなかった」
 「こんなことが起こることは知らなかった」
 労災職業病が起こるとき、会社や政府のせりふとして、今まで何回聞かされたことであろうか。
 これはただ原子力産業だけのことではない。
 多くの労働者が自分の仕事やまわりの危険についてほとんど教えられていない。
 会社もまた知らさない方がよいとしてかくしている。


変えさせなければ 
すべての企業の安全対策の基本的な考え方としくみを

 すべての企業の安全対策の基本的な考え方としくみを変えさせなければ、人々のいのちと健康は守られない。

 今回の原子力災害が改めて私たちに教えたことは、
 
第一に、企業(業界)や政府がずっと言いつづけたような「絶対に安全だ」「事故はありえない」という「神話」は成立しないことである。

 その主張は予防対策に金をかけたくないために行われている。
 そのために、生産現場では信じられないような危険な作業が平気で行われることになる。
 「危険職場」とされているところではとても起きないような。
 JCOは「臨界事故を防止する対策を講じており、臨界事故に対する考慮は要しない」という事業変更申請書を出し、科学技術庁や原子力委員会はこれをうのみしていた。
 「もんじゅ」や再処理工場のぱあいも、動燃が「絶対に起こらない」と説明していた火災や爆発が起きた。

危険な仕事をしているかをかくす体質が強い企業や政府

 第二に、企業や政府はそこで働く人たちや付近の住民にどのような危険な仕事をしているかをかくす体質が強いことである。

 「それを言うと働くものがいない」
 「住民がパニックにおちいる」

がかれらの言い分である。
 労働者や住民はそれを知る権利があるが、企業は「企業秘密」の名の下にそれを拒む。
 JCOは臨界反応を起こした沈殿槽の写真を10月1日に撮影していたのに4日間もかくしていた。
 「もんじゅ」事故でもナトリウムが漏れた配管をわざとかくしていた。

利潤や効率を第一に優先させて
  事故の原因や責任をあいまいに

 第三に、企業は労働者や住民の生命と健康を口にしながら、利潤や効率を第一に優先させていることである。

 最近、山陽新幹線をはじめ多くのJRトンネル内や橋げたのコンクリート塊の落下事故が発生している。
 99年6月、福岡トンネルでのコンクリート塊の落下は直接車輌を破損するものであったが、JRはトンネル表面での点検修理を行っただけで8月に
「今後10年間は絶対安全で心配いらない」
と宣言した。
 それから2ヵ月も経過していない10月9日、北九州トンネルで重さ226㎏の大きなコンクリート塊が線路に落下した。
 会社は先に出した「安全宣言」について
「あれは前回修理した所だけの話だ」
と弁解をしたが、実は7月に漏水やひびわれの異常を認めた場所であった。
 会見した記者に追及されて、社長は
「今後落下の可能性は否定できない。100%の安全はない」
と宣言を撤回した。
 あいつぐ落下の原因が、専門家によってコンクリート材料の海砂利用や効率優先の手抜き突貫工事にあることを指摘されているにもかかわらず、その抜本的改修をおそれて、あくまで事故の原因や責任をあいまいにしているのである。

事故や災害はとぎれることなく再発する
 会社・政府の原子力政策に
最大の社会的責任を明らかにしないかぎり

 今回の原子力災害は、会社が製造の期限と増加におわれ、効率と人べらしをすすめるあまり安全施設のない作業場で危険な作業をさせたところに原因がある。
 同時に、このことを認可ないし見逃していた科学技術庁と原子力委員会、そしてそれをバックアップした政府の原子力政策に最大の社会的責任がある。
 このことを明らかにしないかぎり、事故や災害はとぎれることなく再発するであろう。

絶対忘れてならない
鉱内に閉じこめられた労働者のいのちより
夕張炭鉱の保存を優先するための注水した社長を

 1963年から65年にかけて、三池・夕張炭鉱の大災害が続いたとき、それらが政府の石炭から石油へのエネルギー政策の下での安全経費の切り下げと人べらし、労働条件と労働者の権利の剥奪から起こっており、その原因と責任を明らかにしなければ災害が多発するであろうと私は警告した。
 そのとおりに次々と災害はおこり、82年に夕張新鉱でも80人をこえる死傷者が出た。
 このとき鉱内に閉じこめられた労働者のいのちよりも、炭鉱の保存を優先するための注水を社長が提案して家族だけでなく全国の怒りをかった。

恐ろしい「不可知論」とあきらめと無知

 今回の原子力災害やコンクリート塊落下は、わが国の原子力政策や新幹線政策の根源に触れるものである以上、労働者・住民のいのちと健廉を優先するという見方から根本的に見直す必要がある。
 そのことをうやむやにして若干の手直しだけで既定の路線を進めるなら、このような事故・災害が遠からずくりかえされるであろうことは明白である。

 「労働者のための労働衛生」を目標に40年間、努力してきた私にとって、くりかえしくりかえし言い続けたことは多い。
 にもかかわらず、わが国では依然として労働災害、職業病、産業公害、過労死(自殺)が多発している。
 これらの一つ一つの実態と原因・責任を現場で調査すれば必ずそれをなくする方策が見つかるはずである。

 こわいのは「不可知論」とあきらめと無知である。

 現場で調査することさえ困難で、この壁を打ち破るためにも労働者の協力が必要だった。
 働くもののいのちと健康を優先させることは今日の社会ではきわめて困難である。

 放射線障害 
生物に電離作用を起こして障害を起こすものに、アルファ線、べータ線、中性子線、ガンマ線などがある。
 一度に大量を被ばくすると吐気・脱力感・紅斑・白血球減少・発熱・下痢・脱毛などがおこる。
 慢性的には、皮ふの荒れやただれ、白血球の減少や貧血、目の障害、さまざまな部位のがんがおこることがある。
 ともに免疫が低下するので感染症にかかりやすい。