2011年8月2日火曜日

崩れた「原子力安全神話」 学校教育でも原子力についての危険性、とくに放射能、放射線について知識を


山城貞治(みなさんへの通信55)
「教職員の労働安全衛生問題の政策とその実現のために 第1次討議資料」の実現した事項(1997年から2006年までの約10年間)
 政策「労働安全衛生対策について」はどれだけ実現したのか(その35)


いのちと健康を考えれば
 その費用は計り知れないほど少ないのに

 教職員や生徒のための安全対策には、費用がかかる。しかし、いのちと健康を考えればその費用は計り知れないほど少ない。
 行政は、いつもいのちが失われて社会問題化すると安全対策を講じる。
 しかし、府立学校のアスベスト問題に見られるように府教委は、安全問題が社会問題化しないようにと必死で、安全対策への改善を指摘する人々への「いやがらせ」「報復」「見せしめ」などが現れたが、「アスベスト撤去」の断固たる姿勢に一応認め、内々に京都府とともに大量のアスベストが使用されていた府立学校の校舎の建て替え行っている。
 このことは、1986(昭和61)年6月京都府議会で誠実に事態を受けとめ、安全対策を行っていれば、京都府や府教委の言う「お金をかけなくてすむ」ことが出来たはずである。
 一時的にごまかし、問題の本質を解決しない行政は、あとあと膨大な出費が必要となることを教訓化しようとはしない。
  また、学校は中小大規模の安全対策でも独自に対策は打てず、京都府・府教委がすべての権限を持っている事が明らかになった。

校長は事業者になり得ない 

HOSOKAWA ADVICE  細川汀氏は、京都府高機関紙労働安全衛生対策委員会ニュース「教職員のいのちと健康」を読み、1998年5月に、

 責任体制の明確化が難しい日本の行政機構の研究が必要なようですね。
 (労働安全衛生法の)「事業所」については、そこの責任者が「金を出す権限がないから出来ない」という人であってはならない、というのが原則ですから、校長ではないでしょう。
 その上で、「校長の責任」を別に規定しなければならないでしょう。(予防・増悪~再発防止・手当・救急の責任についての)
 ねばり強く討議することを惜しまないようにして下さい。

生徒・教職員・学校の安全対策のほとんどは行政にある

 アスベスト問題では、まさにこのことが如実に現れた。
 都道府県立学校では、一定の範囲の予算が各学校に配分されるが、その執行権限は校長になく、事務の出納責任者(京都府立高校では事務部長)であるが、中小大規模の費用になると京都府にその権限がある。
 市町村立の義務教育学校では、予算執行権限は学校にはまったくなく市町村の行政にある。
 これらの事を充分知らないと労働安全衛生上も安全対策上も充分な手立てが打てない。

 2000年になると府高労働安全衛生の取り組みも反映して京都府・府教委は学校の安全対策を無視できないようになり、次のような報告が寄せられてきた。

化学実験における安全対策の一定の改善から広がる確信

K高校にも下方換気扇実現         K高校分会

 K高校化学実験室には上方換気扇は南側、北側、2箇所ずつ4つの換気扇が設置されていますが、下方換気扇がありませんでした。
 化学実験においてはやむなく有害(毒)な気体も発生し、その場で働く教職員の健康はもとより、生徒の健康を守るためにも是非下方換気扇が必要と、1997年度より分会で要求していました。
 管理職は、当初から必要性は認めるが予算的な措置がとれないということでした。しかし、1999年2学期末、2箇所(理想は4箇所)設置が実現しました。
 このことは、分会での要求と同時に、府高の「教職員の労働安全衛生を要求する取り組み」があったればこそと痛感しています。
 高校の化学実験では扱う量は少ないのですが、有害(毒)な薬品を多数扱い、接しています。今後、このことも課題となります。 

府立学校において「放射能被爆の可能性の問題」が

  しかし、府立学校において「放射能被爆の可能性の問題」がこの段階では分かっていなかった。
 だが、「教職員のいのちと健康」2000年1月大阪労働者安全センター北口修造に特別寄稿を寄せていただいていた。以下その全文を再転載する。

JOC「臨界事故」を二度と引き起こさないためにも
学校に安全対策と安全教育を 
  -東海村・JOC-「臨界事故」現地調査を終えて ー


 19999年12月6日(月)東海村「臨界事故」現地調査に行きました。
 調査の前日、レクチャーを受けました。率直に言って今回の事故を通じ、初めて原子力に関する法制度を知るにいたりました。
 その一例として、
(1)原子力基本法(21条)、
(2)核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(83条)、
(3)放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(59条)です。

22年もおくれた原子力安全「チエック機能」

 
原子力基本法の施行日と同時に、日本原子力委員会が発足されたのは1956年1月1日、同年6月に日本原子力研究所が発足。
 建前上、審査、チェック機能をもっ原子力安全委員会は1978年10月で、22年後になってからの発足です。

 規制に関する法律条項では、核燃料取扱主任者の選任く30日以内内閣総理大臣に届け出/罰則)と核物質防護管理者の選任を定めています。
 取扱主任者の核燃料物質の取扱いに関して保安の監督を任務とし、科学技術庁官の行なう核燃料取扱主任者試験に合格し、免状を交付された者から選任することになっています。
 防護管理者の資格要件は特定核燃料物質の防護に関する業務を統一的に管理することを任務とし、特定核燃料物質の取扱等 の知識等について総理府令の定める要件を備える者のうちから選任することになっています。
 これらの選任は、核燃料の「製錬」「加工」「再処理」の事業者に義務づけられています。
 JCO事業所では、これらの選任はどうであったかについては明白されていませんし、主任者の責任コメントは未だ報道はされていません。
 さらに関連法規として、被害者の損害賠償に関して、
(1)原子力損害の賠償に関する法律(26条/1961年)、
(2)原子力損害賠償補償契約に関する法律があります。
 事業者に保険契約を義務づけ、補償・賠償の限度を上回る事態が生じた時は政府が補償することになっています。保険契約金は2000年度から600億円(現行300億円)に引き上げられるそうです。

 原子力「安全神話」・想定外と 東海村 JOC「臨界事故」
 事故原因は リストラ・ 安全教育の皆無など


 今回の臨界事故について市川先生(明治大学講師.元日本原子力研究所研究員)が指摘されましたが、政府関係機関が「臨界」を想定していなかったことにあり、「安全神話論」のもとで、作業に従事する者にたいしてなんら核燃料の知識はもとより、安全教育が施されていなかったことが言えるでしょう。
 
市川先生は、今回の事故の背景を

①JOC社内のリストラの影響
②20%濃縮ウランを処理するための施設の設置に関わる安全審査において、具体的な審査基準がなく一般的指針により審査がなされた。
③誤動作があっても臨界事故が起こらないようにするとの指針に反して設置変更が許可されていた。
④臨界事故警報装置や中性子測定モニターなど臨界事故発生時の対応設備がないまま操業が許可されている。
⑤原子力は安全だという根拠のない思いこみ(安全神話)など
多くの問題と改善を指摘されていました。

原子力作業は 無資格で行えるなんて……

 
現地で原研労組の方々とも交流しましたが、「作業者の資格は何もない」(花島委員長)と指摘され、資格免許制度の必要性を提起されていました。

原子力「安全神話」と「臨界事故」問題に
    対応できない労働安全衛生法


 橋本さん(全労働本部副委員長)のレクチャーは小生と同様の見解でした。
 労働安全衛生法を今回の臨界事故に当てはめようとする条項は、安全衛生管理体制に係わる条項しかありません。
 電離放射線障害防止規則(規則は大臣が定める)の規定は、①医薬部門②工業的部門③農業部門④研究開発等を対象にされており、小生も核燃料物質の製造事業には当てはまらないと思っていたことが、ズバリそのものでした。
 東海村・JCOは、国道6号線沿いにあり、少し離れて親会社の住友金属鉱山があります。
 敷地は5千坪(推定)、正面左 側にサッカーグランドがあり、建物も新しく屋内も整備されていました。
 守衛室の係員も丁寧に頭を下げられ、応対された3名の担当者も神妙で、事故対策チームリーダーも要請にあたって冒頭から謝罪され、私たちの要請文の範囲のみ回答され、質問事項①事故に際しての指揮命令系統②安全衛生管理体制の確立③フイルムバッチの着用④防災・消防計画と訓練等の有無について、後日各担当者から回答することを確約しました。
 現在、親会社から職員も配置し延べ200人、常時50名が原因究明、補償等について従事しているとのことでした。
 この後、東海村役場を訪問し、企画政策部長、課長の事故当時の対策の説明を受け茨城県庁、科学技術庁との相違(臨界に対する認識、退避)があったことを知ることができました。
 東海村村長は独自に判断して半径350m内の住民に退避勧告要請を行なったことが、地元では「英断」として評価されています。

学校教育で原子力の危険
 とくに放射能、放射線の基礎的学習を

 
余談ですが、東海村は人口約3万4千人、日本原子力研究所をはじめ、核燃料物質に係わる原発施設が13箇所、そのうち製造事業所が3箇所もあります。
 村役場は豪華な建物で、職員700名(病院1箇所含む)、原子力対策課(3F)も設置されています。村財政も豊富で、隣接町村との合併にも反対しており、小生の感触では、東京電カからの資金提供を受け、政府からもかなりの補助金が出でいることのではないかと思います。
 最後に、小生も過去に原発問題に関して一時関心を寄せましたが、臨界事故を通じて日本の法制度や核燃料物質に傾注しはじめただけに、学校教育でも原子力についての危険性、とくに放射能、放射線について知識の必要性を感じました。( 1999.12.8  )